「ナナ?」
ジルが心配そうに見つめる。
カップルを眺めて感動して涙が出たわけじゃない。
3日前に振られたばかりだから、感情が思うようにコントロール出来ないだけ。
だって、来年あたりには結婚しようか?という話だって出てたのに。
だから、半月ほど前に新居探しで不動産屋さん巡りをしたばかりなのに。
楽しいはずの卒業旅行も、傷心旅行になってしまって。
4年間苦楽を共にした親友たちと旅行すら出来ずに卒業したというのに。
やり場のない感情にのまれそうで、止めどない涙が堰を切って溢れ出していた。
セントラルパークでも号泣していた私を目にして、ここでも同じく号泣した私を目にしたジル。
テーブルの上に通訳機があるのに使おうとせず、私に質問することもなく、ただ無言で抱き締めてくれた。
『大丈夫だよ』と伝えるように優しく背中を摩りながら……。
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「んっ……っ……」
目が覚めたのは14時過ぎ。
時差ボケもあるし、深夜遅くまでジルとお酒を飲んでいたのもあって、スッキリとした目覚めではない。
昨夜、ジルはホテルまで送り届けてくれた。
私が号泣したわけを聞くこともせずに。
彼の優しさが身に沁みた。
初めての失恋というわけでもないし、正式にプロポーズされたわけでもない。
ただのガールフレンド。
だから、出会いがあれば、別れもある。
別れることが運命だとするなら、きっとこの先にまた出会いがあると思うから。
この旅行を機に、恋をリセットしなければ……。
シャワーもせずに寝てしまった私は、身も心も洗い流す為に浴室へと向かった。



