ジルは私のことをナナと呼ぶ。
ナナミだとは伝えたけれど、友人や両親も私のことをナナと呼ぶから違和感はない。
むしろ、親近感が湧くくらいジルは気さくで話しやすい。

彼のお兄さんが務めているというBarに連れて来られた。
Barというよりお洒落なレストランみたいな感じだけれど。
ニューヨークでも結構有名らしくて、そのBarで彼のお兄さんはシェフをしているそうだ。

店内では小さなパーティーが開かれていて、結構賑やかな雰囲気。
ジャズ演奏がなされていて、お酒を楽しむ人や食事を楽しむ人もいれば、音楽を楽しむ人もいて。
さすがマンハッタンの夜。

元々夕食をこのBarで食べることになっていたようで、店内奥の席に案内された。
程なくして、彼のお兄さんが料理を手にして現れた。

隣りに私がいるものだから、当然驚いてるんだけど、彼が上手く話してくれたようで、私の分の料理も用意してくれた。

ニューヨークのレストランでディナーをするなら、席予約しないと食べれないとジルは言う。
だから、この店によく来るらしい。
1人でも入り易いから。

ビールで乾杯して美味しいお料理を頂いていると、彼のお兄さんが気を利かせてスパークリングワインを出してくれた。
ビールよりスパークリングワインの方が料理に合うからと。
さすがシェフ!

久しぶりに洗練されたお料理に舌鼓を打っていると、少し離れた席のカップルにスポットライトが当たった。
男性が跪き、女性に指輪を差し出している。
プロポーズしているようだ。
女性がはにかみながらその指輪を受け取り、男性は彼女を抱き締めた。

映画のワンシーンのような出来事を目にして、涙が零れ落ちた。