間近で見ると、遠目で見た時よりもイケメンだと分かる。
長い睫毛に整えられた眉、くっきりとした二重の目はアーモンド形をしている。
それに、凄く綺麗な歯並びが羨ましく思えた。
私は牙みたいに目立つ八重歯があるから……。

簡単な英会話くらいなら出来るけど、早口で話されると焦ってしまう。
だから、念の為にスマホには翻訳アプリを入れてあるし、ポケットタイプのAI通訳機を持って来ている。
それを使って彼と話すと……。

日本人はみんな、忍者の子孫だと思っていたらしい。
私の説明を聞いて、衝撃を受けている。

彼の名前はJill(ジル) Thompson(トンプソン)、23歳。
体操選手でオリンピックのアメリカ代表の一人らしい。
来週末まで実家のあるニューヨークで過ごし、その後に強化合宿に合流するという。

だから、あんなにも軽やかに宙を舞うことが出来たんだ。

お互いに名前や年齢などを伝えた上で、興味のあることを沢山話した。

ジルは忍者になりたくて体操を始めて、日本で行われる国際大会に出場する度に城巡りをしているらしい。
そんな可愛い発想の彼が、お腹が空いたから何かを食べに行こうと誘って来た。

1人で食べても美味しくないし、ニューヨークの夜の街を1人で散策するのも少し怖い。
だから、彼の誘いを受けることにした。

さっき知り合ったばかりの忍者オタクのアメリカ人に……。

「ナナ、beer OK?」
「OK」

本当なら、初対面の、しかも外国人相手にお酒の誘いを受けるのはタブーだと分かっている。
けれど、失恋と1人旅行という罰ゲームみたいな状況下で、何かを打破するには少しくらい危険が伴った方が踏ん切りがつくと思って。