演技終了を知らせるような丁寧な礼をした彼は、芝生の上に胡坐を掻いて座り、飲み物を口にした。
それが合図なのか、その場にいた人々があっという間に散ってゆく。

行く当てのない私は、夜空を見上げた。
下を向いたら、今にも涙が零れ落ちそうで。

ダメだ。
上を向いても涙は溢れて来るらしい。

キャップの鍔を更に下げ、その場にへたり込んだ。
歩く気力もない。
発狂して苦しい感情を爆発させたいけれど、それも簡単には出来ず。

やり場のない感情に押し潰されそうになる。

ポタポタと幾つもの涙が零れ落ちるのが分かるが、それを拭う気力も無くて。
声を押し殺して、涙が枯れ果てるのを待っていた、その時。

無問題(モーマンタイ)
「ッ?!」

先ほどの彼が、背中を摩っている。

無問題って、中国語じゃなかった?
もしかして、私、中国人だと思われてる?

いつの間にか、彼と私しかその場にいない。
私が涙しているのが分かったのか、彼は私を慰めようとしているみたいだ。

「フフフフフフフッ……」

思わず吹き出してしまった。
だって、無問題って……。

「I'm Japanese,not Chinese.」
「Japanese?! ニンジャ デスネ?!」
「へ?……忍者?」
「I love love love love love ninja!!」
「フフフフッ、アハハハハハッ」

無問題の次は忍者って……、しかも、love が多すぎでしょ!
どんだけ、忍者が好きなのよ……。

失恋してブルーな気分通り越してブラックホール並みの闇に堕ちてたはずなのに。
彼の一言で、そんな気分もどこへやら。
お腹が筋肉痛になるくらい、笑いが止まらない。

日本人はみんな忍者だと思ってるのかしら?