「抱きしめてもいいですか。」


しばらく黙っていたと思ったら、唐突にそんな言葉を口にした。

私はそれに頷く。


「……はい。」


いつもはそっと触れてくるくせに、私の言葉を聞くなり勢いよく抱きしめてくる。


「菅野さん可愛い。可愛すぎます。なんて可愛いこと言ってくれるんですか。あー、可愛い。
俺も好きです、大好きです。」


「知ってます。」


「もう俺も本なんて読んでられない。
……でもさすがに菅野さんのお母さんに安心安全を約束した手前……。
やっぱり俺外行ってきます!」


わたわたしてる。

こんな先輩は告白した時以来かもしれない。


「待ってください。」


「……はい。」


「付き合ってますし、その……、キス…くらいなら、セーフじゃないですか?」


絶対普段の自分なら言わないし、正直私がこのセリフ言ったの?って自分でも驚いている。

家主に出ていかせるのは申し訳ないって思ったけど、咄嗟に出た言葉がそれ……?恥ずかしすぎる。


「は?え?何?今日なんなんですか?何かにとりつかれてますか?菅野さんですか?いやその可愛さは菅野さんなんですけど……。」


私の言葉を聞いた先輩の顔が、若干赤くなってるように思えた。

きっとそういう自分も真っ赤だろうけど。

もう恥ずかしすぎて俯くことしかできない。


「……内緒ですよ。」


そう言うと、やっぱりいつもみたいにそっと触れてきて、俯いてる私の両頬に手を添えて私の顔をあげさせる。

見間違いじゃなかったようで、顔を赤くした先輩と目が合う。


そのまま腰と後頭部に先輩の手が移動したと思えば、そのまま引き寄せられて、唇が重なる。

唇が離れて目が合うと、先輩はいつもみたいに笑ってくれた。けどいつもと違ってその瞳には熱を感じる。

その瞳が近づいてきて目を閉じれば、再び口付けをくれた。


「好きです。」


唇を離して、けど少し動けばまたすぐにでも触れてしまいそうな距離で呟く先輩。

“好き”という言葉と、真剣な口調、先輩の顔が近くにあること、先輩の声の良さ、なんかもういろいろなことが一気にくる。

もしかしたらきょう、わたしのしんぞうはばくはつするかもしれない!


「可愛い。」


今度は額に口付けされる。

そしてまたそっと抱きしめられる。


「離すの嫌になった。
頑張って我慢するので、やっぱりくっついてていいですか。」


「……はい。」


ぎゅっと抱きしめられると、先輩の心臓も私と同じくらいドキドキしているのがわかる。


「先輩もドキドキしてたんですね。」


「当たり前じゃないですか。好きな人ですよ。ドキドキしないわけがない。」


「嬉しいです。」


「……菅野さんのお母さんに、安心安全の約束を守れないかもしれないという旨を伝えないといけないですね。」


「真面目ですね。」


「好きな人は大切にしたいし、その人の家族も大切にしたいってだけですよ。」


「嬉しいです。」


「……今日の菅野さんは素直すぎるし、更にちょっと大胆で、とても心臓に悪いですね。」


「いやほんとはあんなこと言うつもりなくて……。」


「まあまあそういうこともありますよ。
俺は嬉しかったしいいじゃないですか。」


「……そうですね。」