「佐山くん?」


呼ばれた方に視線を動かすと、さっき帰り際に声をかけてきた子と、多分その隣にいた友達の女の子2人組。


「さっき急いで帰っちゃって話せなかったから、こんなところで会えて嬉しい。」


俺は嬉しくないし、久々の菅野さんとの時間を邪魔しないで欲しい。


「ごめん。今デート中だから。また今度でもいい?」


「あ、そうなんだ……。
ごめんね、邪魔しちゃって。」


「いえ、じゃあ俺はこれで。
行きましょう菅野さん。」


半ば無理やり話を切ってその場を抜け出す。

最初のグループディスカッションでちょっと話した程度なのに、若干好意が見えてるのが少々不愉快といいますか……。


菅野さんからの好意以外は、相変わらず嫌悪感を抱いてしまう。


「先輩?」


「ん?」


「なんか険しい顔してましたよ?」


「久々の菅野さんとの時間を中断されたくないって気持ちが顔に出ちゃったのかもしれません。」


「ポーカーフェイス得意なくせに?」


「菅野さんに会えた、嬉しい!って気持ちで、表情筋も浮かれちゃったんですかね。仕事が手につかなかったんだと思います。」


「はいはい。」


「……本当は、ちょっと嫌なんです。
この人は自分に恋愛的な意味の好意を抱いてるんだなって気づいたら、なんか気持ち悪くなっちゃうというか……。」


「そうなんですね。」


ただ聞いてくれるだけで、理由とか深く聞いてこないところが菅野さんらしくて好きだなと思う。


「もちろん菅野さんは例外ですよ。」


「そうでしょうね。
気持ち悪いと思ってたら、卒業式の時あんなに言いふらさないですもんね。」


「いやその節はほんとにすみません。」


卒業式の時、俺は嬉しさのあまり話しかけてくる人全員に報告してしまった。

菅野さんは俺の近くから離れる機会を見つけられないまま、たくさんの人からの質問攻めにあい、俺がひと通りみんなと話し終わったあとには、菅野さんは疲れた顔をしてこちらを見ていた、ということがあった。


「まあいいですけど。
全校生徒の前で宣言されるよりマシなので。」


「あ、それもダメでした?すみません。」