翌日。

卒業式は無事終わって、卒業式の後に少し話したいから、校門のあたりで待ってて欲しいと先輩に昨夜言われた通り、先輩を待っているところ。


「菅野さん!」


先輩の声がした方を向くと、正面玄関から走って近づいてくるのが見えた。


「先輩。すごいですね、その格好……。」


先輩はボタンというボタンがなくなっていた。

ある程度予想はしていたけど、シャツのボタンが無くなる予想はしてなかったな。


「教室でたら大勢人が待ってて、まあ最後くらいいいかと思ったら、この有り様です。」


「お疲れ様です。」


「こちらが呼んだのに遅れてすみません。」


「いえ。」


「いい加減これで最後にするので、聞いてもらってもいいですか。」


「はい。」


先輩は少し緊張したような様子でゆっくりと深呼吸をすると、私を真っ直ぐに見つめる。


「最初は本当にただ興味本位で、けど菅野さんを知っていくうちに、俺は絶対この人がいいって思うようになりました。
俺は菅野さんが好きです。」


そう言って、はにかみつつ満面の笑みを見せてくれる。


「先輩、ひと言足りなくないですか?」


今まで散々聞いてきて、この人はいつ諦めるんだと思っていたけど、今日はそれを言って欲しい。


「俺と付き合ってください。」


今日はこれを言われたらこう返そうと決めていた。


「はい。」


「……えっ?え、待って待って。即答されるとは思ってたけど、そっち……?
え、言い間違いですか?」


「そんなわけないじゃないですか。」


「は?え?まじで?
だって俺約1年間ほぼ毎日言ってて、毎日余裕で断られてましたよ?」


「そうですね。」


「今日エイプリルフールじゃないですよ?」


「知ってます。」


「え、だとしたら本当にほんと?」


「だからそうですって。
あんまり執拗いと嫌われますよ。」


「俺の経験上、菅野さんは執拗いのが好みみたいですよ。」


「……確かに。」


「うわ、まじか。えー、嬉しい!」


「そろそろ落ち着いてください。」


「はい。」


うろうろしてたのをやめて、けどまだ嬉しそうにニコニコしながら、私の前に向き直る。


「なんでOKしてくれたんですか?」


「先輩が大学に行ったら、私以外の人を好きになるのかなって思ったんです。その人に毎朝好きって言うのかなって。

そう思ったら、先輩に好きって言われるのは私だけがいいし、私以外が先輩と付き合うの嫌だなってなって……。」


「俺はそもそも菅野さん以外眼中にないから、他の人を好きになる可能性はないですね。」


「あ、そうですか。」


「もう塩対応しても無駄ですよ。
菅野さんも俺の事想ってくれてるってわかったんで。」


自信ありげにそういう先輩。

なんか可愛い。


「先輩、呼ばれてますよ。後ろ。」


先輩の友達だと思われる人たちが、先輩を呼びながら近づいてくる。


「あ!菅野愛衣さんだー!
どうせまた振られたんだろ?佐山。」


「いや決めつけは良くないよ。」


「じゃあOK貰えたのかよ。」


「もらえた。」


「まじか!」


「やったね、佐山くん。」


「おめでとー!」


近づいてきた6人がだいぶ騒いだせいで、佐山がOKをもらったということが、周りにどんどん伝わっていって、それを聞いた人全員が祝福していく。

全校生徒がだいぶ長い間先輩が振られ続けていることを知っているから、そうなっても仕方ないのかもしれないけど、私だいぶ気まずい……。


「菅野さん、本当にいいんですよね?」


「はい。」