《佐山暁良side》
「ただいま。」
誰もいない家に自分の声が響いて消えていく。
今日は父親が帰りが遅くなると言っていたから、母親はあの人のところだろう。
父親の帰りが遅い日を狙って、母は愛人に逢いに行く。
けど父親が帰ってくるのが遅い本当の理由もまた、愛人だ。仕事が忙しいなんて言って。
もうずっと俺が物心着いた頃にはうちの家はこうだった。
周りには仲良い家族を装っているけど、本当は俺には少しも興味がないし、他の人を想っている両親。
しかも両親はお互いに愛人がいることを察している。
「勉強するか。」
俺が勉強するのも、いち早くこの居心地の悪い家から出ていくのに、それくらいしか思いつかなかったからだ。
夏祭り楽しかったな。
俺はさっきまでの出来事を思い返す。
焼きそばやたこ焼きを美味しそうに食べて、遥斗さんのブロマイドではしゃいで、嫌なことはしっかり顔に出るし、うっかり足まで出そうになる。
思ってることが全部態度に出ちゃうあたり、菅野さんのことをとても好ましく思う。
俺の事を軽率に“好き”って言ってくるその辺の人たちとも、思ってもないのに“好き”を交わしてる両親とも違う。
俺の顔色を伺うまでもなく、俺の言葉をしっかり否定してくれるし、いつなんどきも遥斗さんしか見えてない。
この容姿のせいでみんなが勝手に俺の顔色を伺って、上辺だけの言葉を並べられることも多かった。
だから、そんなことをしないであろう菅野さんと居るのは、結構居心地がいい。
また夏休み中に会えそうだったし、楽しみだな。


