「たこ焼き並んでおくので、そこ座って食べてていいですよ。」


「先輩は食べなくていいんですか?」


「じゃあひとくちもらおうかな。」


そういうと、食べさせて、と言って口を開ける。

子供か、と思いつつ、断ってグダグダ言われるのもめんどくさいので、仕方なく口に運んであげる。


「美味しいですね。」


「でしょ?屋台の焼きそばってなぜか美味しいんですよねぇ。」


「それもあるけど、菅野さんが食べさせてくれたから余計に美味しいのかも。」


賢いくせになんかアホっぽいんだよなぁ、先輩って。


「じゃあ俺は並んできますね。
ここなら並ぶ位置から見えるので、できるだけ動かないでください。
もし動く時はひと声かけてくれると助かります。」


「わかりました。ありがとうございます。」


「いえいえ。」


先輩はひとりでたこ焼きのお店に並びに行った。


すごい。先輩、次々に女の子に声掛けられてる。
全部断ってるみたいだけど。

知ってはいたけどやっぱりモテるんだなぁ。


「お姉さんひとりですか?」


ふと目の前が暗くなって、そこに人がたっていることに気づく。


「……私ですか?」


「そうですよ〜。お姉さん可愛いからつい声掛けてしまいました。」


声かけられるのとか初めてだしどうすれば?

いやこの前ファミレスで山本さんに声かけられたけど、あの時とはだいぶ違うよね。
相手の好きな作品とか推しとかわかんないし。


「えー、無視?
勇気出して話しかけたのにな。ね、少し話さない?」


男はそう言って私の腕を掴む。


「痛っ、離してください。
私人待ってるので放っておいてください。」


「少しだけ。ね?いいじゃん。
すぐ帰ってくれば問題ないでしょ。」


放っておいてって言ってるし、楽しく焼きそば食べてるんだから邪魔しないで欲しい。

私は焼きそばをそっと隣に置いて立ち上がり、思っきり股間を蹴ってやろうと浴衣の裾を少し持ち上げた時だった。


「離せ。」


私の腕を掴んでる男の手を、佐山先輩が掴んでいた。

男は先輩を見て舌打ちをしたと思うと、あっさり去っていく。


「大丈夫ですか?あぁ、少し腕赤くなってますね。他に触られたところは?怪我はないですか?何か不快なこと言われたりとか。」


先輩は怖い顔から一転して、心配そうにいろいろと聞いてくる。


「落ち着いて。大丈夫ですよ。
腕掴まれただけで特に何も言われてないしされてないです。
なんなら私が今しようとしてました。」


「え?」


「ほら、先輩が惚れたってやつ。」


私は右足で軽く蹴るふりをしてみせる。


「あははっ、そっか。そうだったんですね。」


先輩が声を出して体を揺らして笑ってる。

こんなに笑ってるのは初めてみたかも。


「でも浴衣じゃちょっと全力出しづらいなって思ってたので、先輩が来てくれて助かりました。
ありがとうございます。」


「どういたしまして。
本当に菅野さんは強い人ですね。」


「そうですか?」


「はい。
俺の助けなんてなくても、きっと大丈夫なんでしょうね。」


「うっかり急所外しちゃった時は助けてください。」


「ははっ、はい。任せてください。

あ、たこ焼き。
すみません、並び直しですね。」


「これ食べるまで待っててくれませんか?
一緒に並びましょう。」


「はい、待ってます。」