推し一筋なので彼氏はいりません




結局菜々春と一緒に試合を観に来た。

丁度試合が始まろうとしているところで、体育館の中はザワついていた。

そして案の定、体育館の中に設けられた観覧席にはたくさんの女の子たちが居た。


「下は人多いね。上行こうか。」


「うん、そうしよ。」


2階も前の方は結構ごちゃついていたけど、後ろの方だとまだ全然余裕があって、ゆっくりと観られそうだった。


「佐山先輩の名前が書かれてるボード持ってる子とかいたよね?」


「いた。私たちとは応援の熱量が違いすぎて、なんか場違い感あるね……。」


「私たち普段から男の人見てキャッキャするタイプじゃないからね。
あぁ、愛衣の遥斗くんは例外か。」


「確かにこれが遥斗くんが出る試合なら、ありとあらゆる応援グッズを持ってきたと思う。」


「でしょうね。

あ、試合始まったみたい。」


この試合は部活を引退する3年生が、1、2年生とするものらしい。

勝っても負けてもなにかあるわけじゃないけど、毎年やるのが恒例らしい。


「みんなよく動けるな〜。」


「おばちゃんみたいな発言するね。
愛衣だって中学の時はバスケ部入ってたじゃん。」


「バスケ部選んだのは遥斗くんがバスケ部だからであって、得意でもないしあんなに動けてた気はしない。」


「そう?私からしたら愛衣も上手いと思ったけど。」


「それはどうもありがとう。」


「どういたしまして。」


「あ、入った。」


ちょうど会話が切れるタイミングで、3年生チームに点が入る。

入れたのは佐山先輩らしく、すぐに黄色い歓声が上がる。

と同時に、いくつか前の席の子が興奮して振ったボードが、その斜め後ろの子にぶつかっているのが見えた。

え、今顔面にぶつかってなかった?大丈夫かな。
顔抑えてるみたいだし。


「どしたの?愛衣。」


「ちょっとまってて。」


私は自分の席を離れてその子に声をかける。


「さっき当たってるの見えたんですが、大丈夫ですか?
もしあれだったら保健室行きます?」


「あ、ありがとうございます。大丈夫です。」


明るい声で返してくれたけど、相変わらず俯いたまま。


「ちょっと見せてもらってもいいですか?」


少し躊躇って顔を上げた彼女の鼻からは鼻血が出ている。

私はポケットからティッシュを取り出して、数枚手渡す。


「これ使ってください。軽く下向いて鼻を抑えて。
また当たってもあれなんで、少し下がりましょうか。」


彼女が頷くのを見て、彼女と共に菜々春の元に戻る。