【side 葉月】


俺は苛立っていた。


生徒会長なんだろうだの、学校に来いだの、学校に来ているときに限って小言を言ってくる教師。


はづきせんぱーい! と馴れ馴れしく名前で読んでくる女生徒。

影で、実は会長チョロいんじゃね? なんて言っているのを聞いたときは、女を信じることが不可能になっていた。


話しかけるな、という顔を作り、サボる場所を探すべく、廊下を歩いていく。


「あ、会長! おはようございますー!」

「………翔平か」


一般の生徒たちは怯えて話しかけてこないが、いつも無駄に明るい声で話しかけてくる生徒がいた。


生徒会会計、日比翔平。

初めての生徒会会議のとき、恋愛の話を延々と話していて、その空気の読めなさと天真爛漫な性格を売りにした男だ。


………ただの天然だ。


「会長ー! 俺、熱あるんで! 今から早退するんですよー」


………熱なんてなさそうだが。

いや、馬鹿は熱を出すと元気になると聞いたことがある。


「あ、今日のサボりは図書室ですかー? あそこいいですよねー!」

「そうなのか」

………どうでもいいが。


「はいー! 今日は委員会もないみたいなので誰もいませんよー!」


サボりとやけに大きな声で言う時点で、こいつは熱だと確定した。


いつもは小声でからかってくるやつだ。ったく、鬱陶しい。

しかし、いい情報を得ることができた。



「そうか、なら図書室でサボるとするか」

「会長サイコーですね! いえーい!」


わーわーと騒ぎ立てる翔平を無視し、図書室への階段をおりていった。