私は当日、少しの罪悪感と多くのわくわくに包まれて、朝さんの自宅へと向かった。

病院が貸し出してくれた車いすを朝さんは押してくれた。

本当に誘拐犯なのかなというくらい、優しい。

車いすの押し方っていうのは、性格が表れる。私はそう思っている。

朝さんは、優しい力でゆっくり押してくれた。

「大丈夫。きっとうまくいくわよ。」

なぜか自信に満ち溢れている朝さんと、少し話しをした。わたしの過去とか病気のこととか。聞かれて嫌だったことはないけれ
ど、聞かれても戸惑いがなかったのは朝さんが初めてだった。

「あはは。」

「あ、ひなくんが病院を出発したって、綿が。」

綿ちゃんにも結局作戦を聞いてもらって手伝ってもらうことにした。

綿ちゃんは、背中を押してくれる役割。

すこし嫌そうな顔をしていたから、やめようかと言っていたら大丈夫だと言っていた。

どうしたのだろうか。

「屋上いこう、最高なところだとおもうんだ。」

私は車いすを降り、朝さんにお姫様抱っこされながら屋上へといった。

「少しびっくりするようなことさせちゃうけど、気にしないで。」

「……はい。」

リアル感を演じるのかな。

それならば、心の準備をしておこう。

余命少ないのだから、あまりびっくりしすぎると寿命が縮まってしまう。

「ひかるちゃん!」

「来たわね。」

私を抱きしめたかと思うと、首にナイフを向けてきた。