違和感のひとつ

 晶は、常に相手の目を見て返事をするはずなのに、まったくオレのほうを見ない事

 鏡台の上にあるブラシを掴みながら、晶の顔を覗き込んでみると、軽く目を閉じ、口元はしっかり結んでいた

 まるで、何かから見つからない様に隠れている子猫の様に

 さっき、母さんと言い争っていた姿が微塵も感じられない
 
 オレのせいなのだろうか・・?

 「晶、顔を少し上げて」

 「あ・はい」

 晶のストレートの髪を毛先からほぐし、前髪も合わせて全体にと梳かしはじめた
 茶色のサラサラの髪は、絡まることなく、ブラシ通りも滑らかで心地いい

 「どうしたい?」

 「えっと、前髪は残してほしいの。後はお任せします」

 普段も前髪は目にかかるため、あげている筈なのにめずらしい 
 形の良い額を出していた方が、晶らしくて良いと思うが・・

 頭の中心で髪を2つに分け、徐々に髪を編みこんでいく

 昔、この髪に触れたくて、こうして良くアレンジをしたものだ。あの頃に比べたら髪も随分伸びた。今では肩下10cmの長さになっている

 「なぁ、いつから髪を伸ばし始めたんだっけ?」
 ついそんな言葉が口から出ていた

 「えっと、小学4年くらいだったと思うけど・・時々毛先だけ揃えているから、今はこの長さが定着しているの」

 晶は完全に顔を上げると、鏡越しにオレの方を見て『あっ』と叫んだ。そして数回瞬きをして、口を噤んだ

 「お前・・化粧してる?」
 オレもつられて瞬きをした

 産まれてこの方、七五三以外に晶が化粧を施した姿を見たのはこれが初めてだった

 晶にしても、匂いが鼻にまとわりついて、化粧は出来ないと言っていたから・・

 「へ・・変かな?」

 「母さんから聞いた。狩野と出かけるんだって?気合入ってるじゃん」
 編み込みした髪をうなじの上の部分でひとつにまとめながら、軽く流すように答えた


 オレに何を言わせたい?
 好きな女が別の男の為に化粧をしてるのが分かって、言える訳がない

 『綺麗だよ』だなんて。それくらいの抵抗はさせてくれてもいいだろ


 「気合なんてそんな・・私だって好きでしてる訳じゃないもん。だけど今日は・・今はせざる終えなくて、化粧で隠さないと、皇兄に会えないから・・」
 
 晶は両手で自分の顔を覆い隠した