パタパタパタ
 隣の生徒会室から走る音が響き渡った

 気のせいか?晶の足音に似ているが・・

 「『もも~』戻って来いやー」
 隣の部屋に行くと、沢村会長が携帯電話を片手に叫んでいた

 「どうしたんですか?」

 晶がこんな所にいるはずがない
 足音だけで、過剰反応しすぎだな。オレ

 「『もも』が逃げたんや」
 『もも』って、会長が飼ってたハムスターの名前だったな

 「せっかく、写メろうと思っとたんに・・」
 会長は残念そうに溜息をつくと、カメラのレンズをオレのほうに向けた

 「やっぱり!」
 瞬時に会長から携帯を取り上げる

 沢村双葉の携帯画面を見た時、なんで生徒会会議時の写真があるのかと疑問に思っていた
 この人が隠れて写していたんだ

 「会長、人の写真を勝手に写さないで下さい。しかも妹に渡しているでしょう」

 「ええやないか。減るもんでもないし、それにこーちゃんの写真人気あるんや」
 ・・たく、さすが兄妹
 悪びれもせず、言動も一緒

 「今度やったら、本当に怒りますよ」
 そう釘をさしても、やるんだろうな。この人は・・・

 あきらめつつ携帯の画面を見ると、茶色の毛並みで、大きな黒目のハムスターが写っていた

 「これが、『もも』とかいうハムスターですか?」

 「そうなんや、かわええやろ」

 「はぁ・・・まぁ」
 曖昧に返事をする
 ハムスターの顔はどれも同じだろうし、動物には興味ないしな

 「この『もも』とそっくりの子がさっきまでいたんや。ひまわりの種を美味しそうに食べてからに、めっちゃカワイイねん」

 「ひまわりの種なんて懐かしい」
 チョコレートにコーティングされた種をひとつつまんで口の中に入れる

 「こーちゃんも食べるんか?」

 「昔、食べてましたよ。バターで炒めたりして」

 小学時代、庭にひまわりの種を植えて、晶と一緒に育てた
 黄色い大きな花が咲い後、種をつけると一緒に採取して、食べたよなぁ

 俺が中学に入ると同時に止めてしまったが

 「こーちゃんの名前を出した途端、逃げていきよった」
 
 まるで、逃がしたのがオレのせいだと言わんばかりだ

 明日から学校は休み
 晶と顔を合わせる機会が自然に増えてしまうんだな

 ひまわりの種を一つつまみながら、そんな事を考えていた