打撲の痣の他に、引っ掻かれた傷もあちこちあるな

 沢村双葉の手当てをしながら、晶が思い浮かぶ

 あいつもこんな傷ばかり作って、治ったかと思ったらまた、新しい傷を作ってくる

 あいつの場合、ケンカとかの相手がいるのではなく、自分のドジで怪我をするのが大半なんだが・・

 「フフッ」
 思わず笑いが込み上げて、つい声が出てしまう

 「うそ!皇紀スマイル」

 「なんだそれ?」

 「皇紀先輩って普段めったに笑わないでしょ。私達の間で『氷の皇帝』て呼んでるんですけど、えーっと」

 彼女は制服のポケットを探って何かを探している

 「何で、こんな時に見つからないのよ。あっあった。スマホにカメラと」

 カシャ
 レンズをオレに向け、ボタンを押す前に携帯のレンズに手をかざし、写真を逃れた

 携帯を取り上げる

 「あ~。何するんですか」

 「それは、こっちのセリフだ。ふざけるな」

 「だって、貴重なんですよ。皇紀先輩の笑顔」

 何が貴重だ。はー、しかも携帯の待ちうけ画面がオレの画像になってやがる

 「なんだこれは?」

 「その画像、人気ランキング3位のショットなんですよ」
 
 そんな事を聞いてるんじゃない
 勝手にこんな物を写しやがって、こいつに何言っても話にならん

 ピッ・ピッ。携帯を操作して画像を削除していく

 「やめて!私のコレクション!」
 残り、3画像の所で沢村双葉に奪い取られた

 「酷い。せっかく集めたのに・・」

 「残りの画像も消せよ。わかったな」

 「消したら、先輩のメルアド教えてくれますか?」

 人の写真を勝手に写しておいて、この女は・・

 「携帯は持ってない」

 「うそ!今時携帯を持ってない人の方が貴重な存在ですよ」
 
 悪かったな、持ってなくて

 中学の時に五十嵐から無理やり持たされているが、自分の物ではなし、持っていないと言った方が話が続かなくてすむ

 貴重な存在なら1人知っている。晶も持っていない

 晶の場合は、操作音痴なのと、携帯電話なのに携帯しないから、最初から持たせていないんだけどな


 「痣は冷やせば、明後日にはひくだろ」


 コピーをしに行く途中なのにとんだ足止めを食った

 「それじゃぁ私、氷を取ってくるので、コピーも行って来ます。だから、またここに来てもいいですよね」

 「え・・あっ、おい」
 オレの返事も待たずに沢村双葉は書類を手に走って行った

 あぁ、やっぱり1人がいい・・