「ご・ごめんなさい」
 
私は条件反射で謝っていた

明らかに冷たい空気が、皇兄と私の間に流れている

いつもなら軽く見上げなければならない皇兄の顔は、土間から玄関ホールに上がる段差のおかげて、今は真っ直ぐ見れた

暗さにも目が慣れてくる

スーと流れるように皇兄の腕が私に伸びきて、私のほっぺたにふれた

指先は冷たかった

「お前って、悪くもないのに謝るのな。それとも謝らなきゃいけない事したわけ?」

「そんな・・」

そんな事してない!と言おうとする私を制止するかのように、皇兄の親指が私の唇にふれ、残りの指が私の耳にふれる

「ひゃっ」

私はビクッと肩を震わせゾクリとする感覚に目をつぶる

耳の後ろは私の弱点で触れられると全身に鳥肌が立つのだ

「やめてよ。ここ(耳)苦手なの知ってるくせに!」

プルプルと首を振って皇兄の手を払いのけた

早く、この感覚を消したかった

「夕飯出来てるんだよ。待ってたんだから早く上がって」

踵を返す私の腕を皇兄が掴む

「きゃっ」
不意をつかれたのでバランスを崩し、フロアから落ちそうになるのを皇兄が壁になって受け止める形になった

どーしたのだろう?今日の皇兄やっぱりおかしい

どこか身体の調子でも悪いのかな

「皇兄・・どこか悪いの・・?」

皇兄は私の腕を離そうとしない

「あ・・きら・・・ オレはお前が・・」

何かを言い出そうとした皇兄の口元を、今度は私が触れた

「皇兄・・ここ血がついてる。痛くない?」

口元の右端に赤い血らしきものが付いているのが見える
ケンカでもしたの?

それに・・・私は軽く鼻をすすった
 
「なんか皇兄から甘い香りもする」

甘い香り・・というか鼻に付く香りだった
皇兄はいつもミント系の香水をつけてるから、すごく違和感を感じた