「双葉、ケンカの相手はもう帰ったんか?」

 沢村(兄)の目線は、立ち止まることなく私の頭上を通り過ぎる
 
 「何言ってるの!オニイチャン。そこにいるでしょうが!」
 両手を振り上げ、彼女は叫んだ

 ようやく私の存在に気付いたのか、頭上の視線が下がり、沢村(兄)は、ゆっくりと私を眺めた
 
 「あんたが・・やったんか?」
 彼は私の頬に触れた

 「痛っ」

 「すまん。ちょっと立ってくれるか?」

 「?」

 言われるままに椅子から立上がる

 「あの・・何か?」
 『家の妹になにするんや』とか言って叩かれるのだろうか?

 「めっちゃ小さいなぁ。それにあんたの方が酷い痣やないか」
 
 「はい?」
 なんか予想外の展開

 「双葉、俺がいつも言ってるやろ。自分より小さい子はいじめるなって。どう考えてもこの子の方が歩がわるいだろうが」

 「何よ、オニイチャンのバカ!」
 彼女は鞄を沢村(兄)に投げつけ、私を睨むと部屋から出て行った

 あ・・えっと・・・・
 とりあえず、沢村(兄)には、叩かれずに済んだ・・の??かな?


 バシッ、バシッ 竹刀が2度床に叩かれた
 忘れてた。生徒指導の先生がいたんだった

 「沢村、あれはお前の妹か。お前に似て生意気だな」
 先生の目は私ではなく、沢村(兄)の方に向けられていた

 「これは、鎌田センセ。妹が迷惑かけてからに、先生の手を煩わせてしもて、すんませんなぁ」
 穏やかな顔から、一転して鋭い表情で彼は答える

 「部の予算の訂正は出来ているんだろうな」

 部の予算?今は私のケンカの話では・・?

 「近々、返事できると思いますわ。今、内のエースがまとめあげてるし、楽しみに待っといて」

 なんだろう?この2人の間に火花が見える

 「そこの1年、お前はまだ帰るな」
 先生は今度は私に話を振ってきた

 「先生・・家に連絡するのだけは止めてください」
 家族調査票を見たら、皇兄の妹だってわかってしまう。そしたら・・

 「だったら、ケンカの原因は?」
 「それ・・は」
 
 「妾の子や。こいつ俺のおやじの妾の子なんや」

 「えっ??」
 沢村(兄)の発言に私と先生は目を丸くした
 
 「センセ、本妻と妾の子が鉢合わせたら、必然的にケンカの原因もわかるやろ。察してや」

 沢村(兄)は私の手を握ると、ウインクした
 「あ・・」

 「この子は、生徒会長の名にかけて、オレが責任もつ。ほな行くで」
 腕を引っ張られ、生徒指導室を後にした
 
 この人が、生徒会長・・