「だから先生、この女が急に殴ってきたんだってば」
 私の方を指差し、沢村双葉が椅子から立上がった
 
 「この顔見てよ。殴られた跡!」
 彼女は興奮して、私が殴った顔を先生に向けている
 その間私は黙ったまま、胸の中にある興奮が徐々に治まっているのを感じていた


 10分前、沢村双葉を囲んでいた先輩の1人が、彼女に殴りかかったのを見て
 『私に殴らせて』
 と横から入り、思いっきり彼女の左頬を殴り飛ばした
 それからは、取っ組み合いのケンカになり、騒ぎを聞きつけた先生に取り押さえられ、生徒指導室につれてこられた
 
 何回殴ったのか覚えていないし、殴られたのかもわからない

 冷静に話し合いで真相を確かめる前に、先に手が出ていた
 自分の中に、こんな凶暴な部分があったなんて正直驚いている

 「さっきから黙っているが、そっちの1年は何か言いたい事はないのか!?」
 「・・・」
 「何とか言ったらどうだ!!」
 私の目の前で竹刀が振り上げられ、床に叩きつけられた

 「言う事はありません」

 「では、自分が悪いと認めるんだな」

 「悪いとは思っていません」
 殴ったのは悪い事かもしれない。でも、嘘をついているこの女が悪い

 「ちょっと、じゃぁ私が悪いって言うの!謝りなさいよ。顔、こんなに腫れているのよ」

 「あなたが嘘をつくのが悪いんでしょ」
 顔が腫れているのは、お互い様だ

 「2人とも、反省の態度が見られないなら、自宅に連絡を入れるからな。名前は?!」

 うげっ。家に連絡って・・それは・・まずい
 皇兄にケンカをしたなんて知られたら、余計な心配をかけちゃう
 でも、この女には謝りたくない。けど・・謝ってこの場が治まるなら・・

 「・・先生、私がわるい・・」

 「双葉!大丈夫なんか?」
 私の声がかき消され、関西弁?の男の人が沢村双葉に駆け寄った

 背は皇兄と同じくらい、後ろの襟首にかかってある髪をひとつにくくっている。ネクタイが外されているから学年はわからないけど・・どこかで見た事があった

 「オニイチャン」
 沢村双葉の声のトーンが変わり、目を潤ませ始めた

 「また、派手にやったな。顔に痣できとるやん。どいつや、お前をこんな目にしたんわ」
 沢村(兄)は睨むように、部屋をゆっくり見回した