2組には、誰一人として姿はなかった

 「ぜぇ、ぜぇ」
 階段を一気に駆け上がってきたせいで、息が苦しい

 「晶?そんな所で、何してんの?」
 4組からひょっこり首を出したのが萌ちゃんだった

 「も・・ちゃ・・さわ、さ・・ふた・ど・・知らない?」

 「何言ってるのか解んないんだけど?」

 「沢村双葉は何処にいるかって、聞いてるの!」
 私の迫力に、萌ちゃんは目を丸くした

 「それならたぶん、体育館のステージの裏にいるはず、どうしたの?晶?」

 「ありがと。萌ちゃん」
 
 体育館ね。踵を返すと、一階の体育館に向かった

 「あきら~。今は行かない方が・・」
 背後から、萌ちゃんが叫んでいたけれど、私には聞こえなかった

 
 体育館には、バスケ部とバレー部がそれぞれ半面ずつに分かれていた

 ステージの上には誰の姿もない

 「確か・・ステージの裏だったっけ」
 体育館を横切り、ステージの裏へ続く扉をくぐった
 
 「暗い」
 窓がないから太陽の光が入らないし、埃くさく、湿った感じ
 こんな所に本当にいるのだろうか?

 ガタンッツ
 何かが倒れる音が廊下に響き渡った

 いくつかの部屋のなかで一点だけ灯りが扉からもれていた
 隙間から覗くと、扉側の4人が奥にいる1人を取り囲んでいた

 「率直に言うわ。桜庭君が何を言ったか知らないけど、すぐに別れなさい!」

 トンッと奥にいる1人の肩が押され彼女、沢村双葉は床に尻餅をついた

 「痛ーい」
 彼女は大袈裟に叫ぶと、キッと4人を睨んだ

 「あーやだやだ、自分達が皇紀先輩に相手にされないからってやめてくださいよ。嫉妬はみっともないですよ」 

 両手でスカートの埃を払うと彼女は立上がる
 「話はそれだけですか?私これから皇紀先輩と会う約束してるんで、彼を待たせたくないんです」

 「ちょっと、あなたねぇ。今桜庭君は生徒会の予算の件であんたなんかにかまっている暇はないはずよ」

 「予算の件より、私の方が大事だって時間を空けてくれてるんです。ご存じだと思いますけど、帰りも一緒に帰っているんですよ」

 私の掌に汗が滲んできていた
 沢村双葉の言葉にムカムカする

 「知っています?皇紀先輩の背中って、広くて温かくて・・・」
 沢村双葉は、皇兄に背負われた話をし始める



 知ってるよ。そんなこと

 もう、ずっと前から皇兄が優しくて、思いやりがあって・・だけど、ちゃんと厳しい事も言ってくれて、誰よりも責任感が強い事も・・

 ずっとずっと、全て知ってる

 だから、部の予算で皆が困っているのが分かっているのに、「予算の件より」なんて、皇兄は言わない

 もうこれ以上、聴きたくない!