「・・き、皇紀ってば」

 「あ・・あぁ」

 ビクッと肩が痙攣し、呼ばれるがままに立上がった
 ヨロヨロと足元がふら付き、壁に手をついた

 「おいっ、大丈夫かよ」
 五十嵐が駆け寄ってオレの腕を取った

 「悪い、ちょっと考え事してた。授業のチャイム鳴ったか?」

 少しの間、記憶がないな。眠っていたか
 朝、学校に着くと屋上にやってきてそのまま・・・

 「そんな酷い顔して、何が考え事だよ。ほら」
 五十嵐はオレに毛布を放り投げた

 「先生には気分が悪いって言っとくから、二時間ぐらい眠っとけよ」

 「いいって」

 「だーめ。医者の息子である俺の診断。それに女の子達にカッコ悪いこーちゃん見せたくないもん」

 「バカヤロ、その呼び方はやめろ・・って言って」
 ・・るだろ

 あぁ・・眠い
 眠るのは嫌いじゃない
 夢の中だけ、オレは晶の兄を演じなくてもすむから・・




 夢の中の晶はいつもキッチンに立って、料理をしながらオレの帰りを待っている

 『ただいま』玄関から物音を立てずに晶の背後まで忍び寄り、耳元でそっと呟く

 『キャッ』料理に夢中になってる晶は本当に驚いて、オタマを持ったまま振り返る

 『もう。驚かさないで』プクッと膨れっ面から笑顔に変わる瞬間がオレは好き
 晶の腰を両腕で抱きしめて、容の良いおでこにそっとキスする

 『///』晶は真っ赤になってオレの胸の中に顔をうずめた

 『好きだよ晶。晶はオレの事好き?』
 『・・き』
 コクンとうなずきながら晶は返事をした

 『聞こえない。誰を好きなの?』
 晶の口から、オレの名前で好きだと聞きたい

 『・・好き・・皇兄が好き』
 皇兄・・ね。オレは肩を落とす
 
 『皇紀って呼べよ』
 『えっ・・あ・・う~』
 晶はしばらく唸っていた。そうだよな、10年以上『皇兄』と呼んでいるのだから、晶の中では簡単ではない

 『皇紀って呼んでほしいな』
 今度は甘えた声でお願いしてみる

 『こ・こう・・きが好き』
 途切れ途切れで晶は答えた。晶にとってこれが限界のライン・・か

 『ありがと晶。無理させたな』
 腰にまわした手を緩め、晶の頭を撫でると晶はゆっくり顔を上げた

 『私、皇紀が好きだよ』


 夢・・なんだと頭の片隅でわかっている。・・だが覚めないで