「本当に食べるの?」
 テーブルに並べた2品を眺めながら、母さんは興味深く尋ねた

 「あぁ。食べてみるよ」
 晶がどんな気持ちで作ってくれたのか解らないが、惚れた弱みだ。食べない訳にいかないだろう

 サバの味噌煮はまともに見えるとして、問題は揚げ出し豆腐
 試しに箸でつまんでみるが、スルリと箸から滑り落ちていく

 「・・・」

 「皇ちゃん、止めたほうがいいわ。晶ちゃんは眠っているから、食べた事にして捨ててしまいましょう」

 箸でつまめないのなら、スプーンで食べればいい
 スプーンを取り出し、すくってみた

 元は豆腐、豆腐は崩れて当り前
 口の中に入れば一緒

 「皇ちゃん?」
 「母さん黙って、今食べるから」

 口に入れば一緒・・と再度自分に言い聞かせ、一口食べてみた

 「ふむ・・・」
 「どうなの?酷すぎて言葉にならないの?吐くなら洗面器持ってこようか?」

 晶もすごい言われ様だ
 もし、聞いていたら頬っぺたを膨らませて怒っているに違いない

 「母さんも食べてみれば?見かけは悪いけど、味は案外いけるぜ」
 もう一口すくって、口に入れる

 豆腐を揚げるときに崩れてしまったのだろうが、かけてある出汁がカツオ節からキチンと取られているから味はいける

 「あら、ホントおいしい」
 疑い半分の母さんも驚きを隠しきれない様子
 
 「そうだろ」
 あいつには、料理は目でも楽しむものだと教えてやらないとな

 「これをおかずにご飯にするよ」
 自然と食欲が沸いて来ているのが不思議だった

 


 遅い夕食を食べ終え自分の部屋に入ると、崩れる様にベットに横になった
 途中、晶の部屋の前で立ち止まっている自分がいたが・・

 「会いたいなぁ」

 部屋が隣なぶん、余計に思いが募る
 
 中2の終わりに晶への気持ちが確信に変わった
 その頃からタバコの味も覚えた

 高校に入ると同時に、晶には必要以上に近づかない様に決めた

 高校と中学は別だったから、守れていたのに

 なぜ、同じ高校を選ぶかな。あいつは・・

 違うな。オレが今の高校なら晶も来るかもしれないと考えて選んだんだ
 薄い空色のブラウスに紺と白のチェックのスカート。晶が着たら似合うだろうな、なんて

 我慢できると思ったのにな。晶に男の存在が現れるまでは・・