「晶ちゃん。ちょっとここに座りなさい」
 キッチンにいる私にお母さんが不満気に言った

 「今、忙しいから後にしてくれる」

 見て分からないかな。忙しいんだけど
 オタマで汁をすくって、味見した
 初めて作るから、味が掴めない。桜場の家で食べた味噌煮ってどんな味だったんだろう?
 一度食べさせてもらえばよかったなぁ

 「晶ちゃん、それは響さんの為に作ってるの?」
 「違うよ」
 「じゃぁ誰のためなの?」
 「皇兄」
 聞かれた事に淡々と答える

 「やっぱり、ここに座りなさい」
 「わかったわよ」

 弱火にして、席についた
 「・・で何?」

 「今日は音楽室に行ったの?」
 「行かないで、すぐに帰ってきた。話ってそんな事?」
 時計を見ると、20:30を過ぎている

 皇兄は帰ってきていない
 何時に帰ってくるんだろう・・?

 「だめよ、だめ。晶ちゃんそれじゃぁ、響さんに飽きられちゃうわ」

 「は?あのね、お母さん私は」

 「お母さんもお父さんのハートを掴むのに色々したわぁ。例えばねぇ」

 また、始まった。お母さんの妄想
 こうなっちゃうと現実に戻ってくるのが長いんだよね
 
 お母さんは私と狩野先輩の事、誤解してるみたい
 優しくて、カッコいい先輩だけど、今の私には皇兄に謝る事でいっぱいなの
 二つの事を同時に考える事が出来ないんだよね

 ガスの火をとめ、ソファにたたんである洗濯物を両手で抱えた

 「これ、皇兄と私の2階に持ってくよ・・て聞いてないね」

 まず、自分の部屋に寄って洗濯物を置くと、次は皇兄の部屋へ・・と
 ついでに、ベットのシーツも換えますか

 皇兄のベットはダブルベットで広々

 「いーなー」
 シーツを換え終えて、ベットにごろんと横になった

 大きなベットが羨ましくて、よくこうしてゴロゴロしたっけ
 これしちゃうと怒られるんだよなぁ

 『5歳くらい離れていたら妹に見えたかも知れない』ってどういう意味ですか?皇兄?

 ゴロンと寝返り打つと、枕から淡いミントの香りがした

 皇兄のコロンの匂い

 「良い・・におい」

 早く帰ってきてくれないかなぁ
 話したい事、いっぱいあるのに。桜場から色々聞いたんだよ

 あ・・でも、内緒にしてって言われたっけ・・

 「・・・ZZZ」