「未由の怪我はかすり傷だったけど、先輩の右肘からは野犬に噛まれて、血が流れててさ、でも『痛い』とか一言もいわないのな」

 そういえば、皇兄の右腕に古い傷があった。あれは未由ちゃんを助けた時の傷跡だったんだ

 「急いで家で手当てをした時にうちの母さん、皇先輩の事気に入ってさ、夕飯食べていけってしつこくて、その時に出したのがサバの味噌煮。まったく芸がないだろ。だけど先輩えらく気に入ってさ、そこから色々話す様になったんだ」

 「何を話したの?」

 「学校の事、サッカーの事、そしてお互いの妹の事」

 うにっ
 い・妹って私の事・・だよね?

 「お前の事『危なかしっくって、目が離せないって』」

 な・・なんですと!?
 私はプクッと頬を膨らました。それってどういう事?

 「だけど、いつもポーカーフェイスの皇先輩が、お前の事を話す時だけ笑顔になるんだ。ただ、一度だけ悲しい顔で言った『晶も、5歳くらい離れていたら妹に見えたかも知れないのに』って」

 「それって、私が妹じゃ不満だって事?」

 「さーな。頭の良い人だから別の意味があるんだろうけどさ。だから、俺その妹に会ってみたいと思ったんだ。一目で分かったよ」

 桜場と初めて会ったのは、入学式の時
 一目で分かったって・・まさか

 「桜場、あれ見てたの?」
 「まーな」

 入学式。うかれていた私は前も見ないで走っていた
 正面玄関はガラスの扉はピカピカに磨いてあって、閉まっている事に気がつかず、おでこから突進して行った
 ピシッ
 最初は小さく裂けた音
 ガッシャン
 私の目の前で、ガラス扉が砕け散ったのだ

 その後、入学式は大騒ぎで、皇兄が誰かのいたずらで石が当たって割れたって事にしてくれたけど、私の頭突きで割れたのが真相

 「確かにあれじゃ、目が離せない訳だよな、皇先輩も大変、大変。これで俺の昔話は終わり。じゃぁ家に着いたから俺はこれで。あと、今日言った事皇先輩には内緒な」

 話に夢中でいつの間にか家の前に着いていた

 「ありがと。桜場、明日学校でね」

 「あと、お前気をつけろよ。狩野先輩の事で一部で目を付けられてるぜ」
 
 「私と先輩は全然」
 
 「お前はそうでも、向こうはそれを知らないから・・とにかく、女の噂話は尾ひれがついて怖ぇぇ・・」
 ブルッと身震いすると、桜場は帰って行った