桜場は確かに言った。サバの味噌煮が皇兄の好物だって

 「やっぱり、サバと言えば味噌煮に限るよな。うん」

 桜場は私に目線を合わせず、一人で言って、一人で納得していた

 「ねぇ、何で皇兄の好物知ってるの?」
 「・・・」
 「桜場ってば!」

 「あー。うるさい、そうだよ。知ってたよ。ほら、出来たから2分経ったら水から上げろよな」

 サバの入ったボールを渡された
 一匹目の分はとっくに2分を過ぎてるから水から上げて、氷のビニール袋に入れて・・と

 「ほら、生姜も」
 冷蔵庫から取り出してくれた生姜を渡される

 「残りのサバを出したら、帰るぞ」
 桜庭はさっさと自分だけ裏口から出て行った

 もう、私の質問に一つも答えてくれてないじゃない
 
 急いで桜場の後を追うため、勝手口で靴を履いていると、赤いランドセルを背負った女の子とぶつかって二人、しりもちをついた

 「ごめんなさい」
 同時に謝ると、立ち上がり顔を見合わせた

 髪を二つに分けて、頬はイチゴみたいに真っ赤で艶があるあどけなさが残る女の子。悲しいかな、背丈は私と3cmぐらいしか違わないよ

 「『にわ』何やってんだ? 未由(みゆ)帰ってたのか」

 「ただいま。お兄ちゃんの彼女?」
 未由ちゃんは好奇心の眼差しで私を見た

 「ばーか。さっさと家に入って宿題でもしろ」

 「はーい。じゃぁね。お兄ちゃんの彼女さん」
 未由ちゃんはペロっと舌を出すと、家の中に駆け込んでいった

 「カワイイね」
 「そんなことねーよ」

 否定しながらも、桜場の表情はうれしそうに見えた
 そして、桜場はゆっくりと話始める


 「俺と皇先輩が出会ったのは、ここなんだ」
 立ち止まった場所は、公園入口横の塀の前。堀は私の腰ぐらいだから、安易に腰掛けられる高さだった

 「オレが中2の時、未由が野犬に襲われた所を助けてくれたのが皇先輩。この塀に腰掛けて、泣きじゃくる未由を膝に抱えていたんだ」

 桜場は塀に飛び乗ると、バランスを取りながら歩き始めた

 「俺さ、3年にチャラチャラした先輩が2人いるって聞いてて、皇先輩には良いイメージ持ってなかったんだよな。だから、未由を抱いてる姿を見た時、すぐに皇先輩だって分からなかった」

 そして、『よっ』と声を上げると塀から飛び降り私を見た