「過去5年の予算と、それに各部の成績、あと各部の備品等の不具合も見てきて統計を取った方がいいですね」

 あとは・・・
 
 ん?視線を感じ横を見ると、両肘をテーブルに置き、手の平に顎を乗せた会長が食い入るようにオレを凝視していた

 「何か?」
 言いたい事があるのなら、言えばいいのに。この人が黙っているとある意味不気味だ

 「いつものこーちゃんと違う様な気がして、やけに素直に引受けてくれたなー思て。また、勝手に名前をだしたと怒鳴られるんやないかと・・」

 なんか今日はやけに控えめだな

 「いつもと同じですよ。ただ、決めた予算を簡単に変えられるのは心外ですからね」

 「過去5年言うたら結構時間かかるで」
 
 「資料さえ集めてくれれば統計はオレが取ります。毎日残ってやってけば、5日間ぐらいで出せれるでしょう」


 オレにとっては好都合
 これなら、晶と顔をあわせないで済む
 
 大きな瞳で見つめられたら、オレはまたあいつの耳に触れてしまう
 晶が弱点だと思っている耳は、もっとも感じやすく女の声を引き出す部分

 やばい・・この前の晶の小さく鼻に抜けた甘い声が頭の中に響いてきた
 あいつの側にいないと決めた途端、前より意識してしまう自分がいる


 「こーちゃん。もうすぐ、・・が来るんや」
 
 「え?」
 最近、晶の事を考えると周りの音が聞こえなくなってしまうな

 会長がなにを話していたのか聞いていなかった

 「まだ、何かあるんですか?どうせなら・・」


 「オニイチャン!」

 壊れるくらいの勢いでドアが開くと、その女はツカツカと会長の元に歩みよってきた

 黒髪のショートで、目も大きい方だがくっきりしており顎のラインは細く、どこか東洋人系の顔立ちの女だった

 「オニイチャン。言ってくれたの?待ちきれないか来ちゃったのよ」
 女は会長の腕にすがって?ぶら下がっているの方が正しいか

 「今、言っていたところや」
 会長は困ったように、鼻の頭をかいた
 
 驚いた。会長にも妹がいたんだ。晶と同じ赤いタイピン

 「オレ、席外しましょうか?」

 「あかん。こーちゃん紹介するわ。知ってると思うが俺の妹の」
 
 「わたしが沢村双葉です。皇紀先輩の側にいられるなんてうれしいです」

 沢村の後ろで会長が無言で合掌し、俺に謝っていた