ピアノの音は、生徒会室から見下ろす音楽室からだ
 
 演奏者は狩野だろう

 晶は今日も、あいつの演奏を聴きに音楽室に来るのだろうか?

 椅子から立上がると、窓を見下ろす
 ゆっくりとした静かな曲が、心の中に流れ込んでくる

 「ええ曲や」

 「そうですね」

 「ショパンの『別れの曲』やな。失恋した時、よう聞いた曲や」

 「そうですか・・」
 
 別れの曲ねぇ。まさにオレにあつらい向きの曲だ

 晶との別れを示しているのか

 それを聞いたら、やけに切なくなってきた

 「こーちゃんて、ふいに泣きそーな表情するんやな」

 「え?」
 顔には出さない様にしていたが、この人は時々鋭いところがある
 オレは急いで笑顔を作った

 「何言ってるんですか。窓、閉めますよ」

 窓を閉め、ピアノの音を遮断すると、元の席についた
 
 「話がそれましたね。で、何の用ですか?」

 わざわざ昼休みに呼び出したくらいだから、重要な事だろう

 「二つあるんやまず、それ見てみい」
 指を指された方を見ると、さっき投げつけられたファイルだった

 表紙だけ見たところ、今期の予算案のファイルだった
 書記に前の会議の決定案をまとまさせて、後は添削をすれば完了だったはず
 パラパラとめくると、赤字で所々の金額の訂正が入っていた

 「!」
 なんだ・・これは・・
 「どう言うことですか?」

 「生徒指導の鎌田っておるやろ。そいつ今年度から漕艇部の顧問になったんを良いことに、予算の増額をしてきたんや」

 あの、いつも玄関の前で竹刀を振り回している奴か

 「でも、こんなワガママ他の先生方が黙っていないでしょう?」

 「それがなぁ。他の先生も鎌田にビビッてしもて、らちがあかんのや」
 
 これだけ予算を変えらたら、他の予算を組み直さなければならない事になる。また、一からやり直しだ
 
 「それで、会長の意見は?」

 この人の事だ。何か言って来たに違いない
 普段はふざけた人だが、理屈に合わない事には、目上の人に対しても譲らない強さを持っている
 
 「もちろん、NOや。近日中に予算案を算出したデータを提出すると宣言してきたわ。うちの桜庭がやりますってな。脳ミソが筋肉の男には、頭脳で勝負や」

 そして、最後はいつもオレに振って来るんだよな