「手紙が5通、呼び出されて告白が11人・・と、もてる男はつらいですなぁ」

ポケットサイズの手帳を開きながら、五十嵐がどオヤジ口調で読み上げた

「うるせーよ」

まったく、今日はいったいどうなっているんだ?朝から休み時間の度に呼び出される始末

「桜庭君、呼んでるよ」

クラスの女子がオレに声をかけた

「はい、はい、告白が12人・・と。行ってらっしゃい」

五十嵐は手帳にメモを書くと、手を振った

「・・・」

教室の入口に行くと、知らない女子が立っていた

「1年5組 井村加奈(いむらかな)桜庭先輩が好きです」

・・と顔を紅潮させ、うつむきながら告白してきた
 
五十嵐ではないが、これで何回目だ?しかも毎回、フルネームを名乗って来る

「付き合ってもらえませんか?」

「オレ今は、」

「やっぱり、沢村さんと付き合うからなんですね」

「は?」

井村という女子は最後まで、顔を上げず走り去って行った

そして、決まって『沢村双葉』この名前が毎回出てくる

「五十嵐、沢村双葉って誰?」

情報通の五十嵐なら、知っているはず

「ゲホッツ、ゲホッツ。何言ってんだ。冗談だろ」

野菜ジュースでむせる五十嵐

「この前、校門前で告白してきた子だろ。覚えてないの?だから告白してくる子も、みんなフルネームで来てるだろ」

「あぁ」

そういえば、人前で堂々とフルネームで告白してきた女がいたな

「でも、断わったはず、お前も側にいただろ。なのになんでこんな」
 
話の途中で、またも、女子の呼ぶ声が飛んだ

「桜庭くーん。1年の子が来てるよ」

またかよ

「皇紀、呼んでるよん」

「後はお前に任せた。これじゃ、おちおち昼休みも過ごせない。図書室に行って来る」

図書室に向かう途中も何人かに声をかけられたが、聞こえない振りをした


本校舎から出て渡り廊下を渡った別館に図書室はあった

ここなら、ゆっくり落ち着けるだろう

ガラッと引き戸を開けると同時に

「あっ、桜庭君」

と女の悲鳴に似た声がオレに飛んできた

「お願い。助けてくれない」

良く聞くと、それはクラスメイトの松井の声

松井は、受付で忙しそうにパソコンのキーを叩いていた