タッツ・タッツ・タッツ
 
背後から走ってくる足音が聞こえ、振り返った
オレの横をジャージを着たおばさんが、軽やかに走り過ぎて行く
その姿を見送りながら、息をついた

晶のはずがない・・か

晶はいつも周りをキョロキョロ観察しているせいか、一緒に歩いていてもすぐに遅れてしまう
晶の気配が消えると、オレは立ち止まって振り返る

『皇兄、待ってよ』

するとサラサラの髪を揺らしながら、真っ直ぐオレに向かって走ってくる
 
夢中でオレを追いかけてくる姿が、たまらなく好きで、オレはわざと晶の歩幅には合わせない

その瞬間だけ、あいつはオレの姿しか見ていないはずだから



「おはよう。桜庭君」

「え・・あぁ、おはよう」

我に返ると、狩野が先方から歩いてくる所だった

「朝、早いんだね。生徒会の仕事か何か?」

「まぁ、そんなところ」

「昨日は突然おじゃまして、夕飯までご馳走になってありがとう」

狩野は適当に返事をするオレにも、嫌な顔をせず笑顔で返してくる

「いや、こっちこそ」

晶が眠るのを待って、1階に下りると狩野たちが帰る所だった
結局、晶もオレも狩野達との夕飯に加わっていなかった

しかし、狩野は何処に行くつもりなんだ?学校は反対方向のはずだが・・

「あの、晶ちゃんの身体は大丈夫?今日は学校に来れる?」

あぁ・・・そうか、家に・・晶を迎えに行くつもりなのかもしれない

「昨日も大した事なかったが、オレが無理やり休ませた。あんた達の相手をしてやれなくて悪かった。晶なら今頃起きてるんじゃないか。迎えに行くんだろ」

オレの言葉が図星だったせいか、狩野は言葉を詰まらせた

「桜庭君が良ければ、迎えに行きたいけれど」

「良いも悪いも、オレが決める事じゃない。じゃぁ急ぐから」

オレは足早に学校に向かって歩き出した
後ろから、『ごめん。引き止めて』と狩野に声をかけられたが、無視して曲がり角を曲がった
狩野の視界からオレの姿が消えると、だんだん歩く速度が遅くなり、立ち止まる

「はぁ」
 
やばいな・・オレ

手のひらに汗が滲んでいる
同じ様な事が、これからも起きてくるに違いない

「あき・・ら」

晶の腕時計を握り締める
いつか・・平気で笑える日が来るのだろうか