晶はオレの生物の授業を聞きながら、5分後には深い眠りについていた

「オレの話って、即効性の睡眠薬並なんだな」

4組の授業では、誰も眠る奴いなかったのに、ある意味こいつは大物なのかもしれない

「本当にごめんな。晶」

晶の頬に触れたい

でも、触れたら決心が鈍りそうでだめだ

首を振り、晶から目線を外し立ち上がった

「ん」

机の上に晶の腕時計が置いてあった

文字盤がオレと色違いの腕時計

父さんが高校の合格祝いに男女ペアで買ってくれたものだが、晶のやつ男物のほうが良いと言い張って結局もう一本男物を買った。晶が薄紫、オレが白の文字盤のものを着けている

カタン。オレは椅子に腰掛けた

自分の腕から時計を外して、晶の時計をはめて見ようと試みた

「あいつ細い手首だなぁ」

調節しないと留め金がかからない

「くれよ。晶」

未練がましいと思うかもしれない
晶と一緒に時を刻んできたこの時計がほしいと思った

オレの時計と交換した事を、晶は気づくだろうか?

白い文字盤の時計を晶の手首の大きさに調節し、机の上に置いた

「バイバイ。晶」

薄紫の文字盤の時計を掴むと、晶の部屋を後にした


 
 
朝、いつもより早く起きるとコーヒーだけ飲んで家を出た

「母さん、今日から生徒会の予算決めやなんかで、忙しくなるから当分は夕飯先に食べて。オレは適当に学校で食べてくるから」

予算決めなんて2/3はすでに終わっていた

「分かったけど・・あまり無理しないのよ」

「あぁ。それと、これ晶に渡しておいて」

昨日、和泉にもらった紙袋を手渡した

「何?」

「晶の腹痛の薬。保健の先生から預かった。母さん、晶に無理させるなよ」

オレはもう、晶を見てやることは出来ないから

「大丈夫よ皇ちゃん。そう思って母さんちゃんと考えがあるの」

「あー。はい、はい」

母さんのとんでもない考えにいつも振り回されているから心配なんだよ

あの人、どこかズレてる所があるからなぁ

オレは手を振ると学校に向かって歩き出した

腕には晶の時計がしっかり時を刻んでいた