『最後に、お前が眠るまで傍にいてもいい・・か?』
皇兄は優しい語り口調で私に聞いた

『だめ・・だよな?』

そして、悲しそうな声で

正直、皇兄と部屋で二人きりになるのは怖かった

だけど・・

「・・・ん・・いいよ」

と答えてしまった

皇兄がベットの側に座り込むのが聞こえる

私は手のひらを壁につけた
昨日、皇兄は片手で私の手首をこの壁に押し付けたのだ
今もその感覚が残っている

その反面、息苦しかったあの場所から逃げたくて・・一人になりたくて

皇兄が連れ出してくれてホッとしたの

「あ、そう言えば洗顔フォームはどうする?皇兄・・?」

「あ・・あれは、あの後見つけた。ちゃんと探さずにお前を呼び出して悪かったな・・」

「そう・・あったんだ・・良かったね」

どうしてだろう・・? なんでかな・・・?

いつもの皇兄なら・・そんなふうに私を呼ぶなんてことあったかな?

「晶、明るいだろ。電気消すぞ」

考えが纏まらない脳の中に、皇兄の声が被せられた

ビクンッ

皇兄の声に私の身体が痙攣し、私はベットから起きた

「や・・お願い、電気は消さ・・ないで。あたし・・まだ・・」

昨日の感覚が蘇り、身体が震えてくる

自分を抱きしめる様に、膝を抱え込んだ


「あき・・ら・・オレ・・お前の気持ち考えないで・・ごめん。ごめんな」

照明のスイッチを押そうとする動作を止めた皇兄の声が震えていた

「皇兄・・泣いてるの?」

「あぁ・・いや・・・」
肯定とも否定ともとれない返事は、涙声

皇兄が泣いて・・る?
私が知っている中で、皇兄が泣いているのは初めてだった

私たち・・兄妹で何を泣いているんだろう?

「皇兄・・電気消して」

昨夜の事は忘れよう。その方がいい。私の中でそう決めたとたん震えが止まっていた

「お前・・」

「あっ。その前に皇兄の今の表情が見たい!!」

私は顔を上げて振り向くけど、、、皇兄には、瞬時に横を向かれ

パチッと部屋の電気を消された

「あらら残念。折角のチャンスだったのに」

私はベットの上にひざを立てて座り直した
 
「皇兄・・私の言うこと聞いてくれる?」

「なんだ?」

「生物の授業途中で抜けちゃったから、もう一回聞きたいなーって」

だって、萌ちゃんやクラスの皆が知っていて、私だけ知らないのって悔しいもんね

「だめ?」

「いいよ。お前どこまで、オレの授業聞いてた?」

「最初から、聞いてなかった」

「たくっ。じゃぁまずは・・・」

皇兄は、優しい語り口調で顕微鏡で見ることの出来なかったスギナの胞子の形を説明してくれた

まるで子守唄のように心地よくて、いつの間にか私は深い眠りについてしまっていた


「バイバイ。晶」

皇兄がそう言っていることも知らずに・・