「・・ら。晶」

カステラを切る私の上で声がした

「はい」

名前を呼ばれるがままに返事をすると、私の隣に皇兄が立って片手でコーヒーを入れていた

「オレのカステラはいいから、あっちに戻ったら?母さんどんどん話を進めてるぜ」

「えっ。あ・・うん」

いつもと変わらない皇兄の仕草

皇兄の中では昨夜のことなんて、まるでなかったみたいだ

「皇兄・・あの」

どうして、あんな事をしたの・・?

「何?」

「ううん。何でもない。戻るね」

私は首を振ると、手を洗ってリビングに戻った

なんだか、色々考えすぎて疲れた

早くこの場から抜け出して、一人になりたい

「二人とも、今日は夕飯を食べていいたらどお?晶ちゃんもお世話になった事だし。ね」

私の気持ちはお構いなしに、お母さんは私に同意を求めた

「うん。食べていって」

私は、なんとか笑顔を作って答える。うまく笑えてるだろうか?

口元は笑っていても、目は笑ってないと思う

瞼が重たい

「晶、ちょっと洗顔って、どこに置いてあるんだ?」

皇兄がリビングの入口で私に声をかけた

洗顔フォーム・・?いつもの戸棚にあるはずなんだけど

「いつもの所にないの?」

「ないから、聞いてるんだろ。ちょっと来いよ」

皇兄は洗面所に向かって行った

「ごめんなさい。ちょっと行って来るね」

萌ちゃんと狩野先輩に断って、私は洗面所に立ち上がった

「戸棚になかったら、買い置きがないのかも」

洗面所の扉を開けると、洗面台に寄りかかり皇兄が立っていた

「こっちの戸棚は見たんだよね?じゃぁこっちかな?」

私は、洗面台の反対側の棚を探し始めた

「見つからないね。皇兄、今日だけ私の洗顔フォーム使うって言うのは・・」

皇兄の方に振り返ると同時に、私の身体がふわりと宙に浮いた

「え?え?」

自分の状況が把握できないままに、私は皇兄の肩をつかんでいた

皇兄が両脇から私を持ち上げたのだ

「な・・何するの!降ろして!」

「黙って。母さん達に聞こえるだろ」

「・・・」

しっかり私を抱きかかえ直すと、二階のへと階段を上り始めた
 
私の中で、昨夜の感覚が蘇り、ガクガクと震えが走り出していた