「あいつ、大丈夫なのか?」

そして、もうひとつ思い出した
 
この女の名前、高原 和泉 中学の時の保健の先生だ

「薬を飲ませたから痛みは引いたけれど、辛そうだった。晶ちゃんに何か言ったの?」

「晶は?何か言ってた?」

「いいえ。皇兄は関係ない。自分が悪いんだって」

「・・・」

ズキンと胸が痛くなった

正直にオレが原因だと言ってくれたなら、あいつの気持ちも考えず、突き進むことができた

蕁麻疹が出るほど嫌な目にあったはずなのに、オレではなく自分が悪いと言っている晶に、オレがしてやれること・・・

「センセ、前に言ってたよな。生理不順や生理痛は、環境の変化やストレスが原因だと」

「えぇ、体調や冷え性の場合もあるけど、あの子の場合はストレスからだと思うわ」

「じゃぁ、原因はオレかもな。あいつに酷い事したし、言った」

「あんたねぇ、たった一人の妹でしょ?何いつまでも子供じみたことをしてるのよ!!」

あぁ、本当に・・オレもそう思うよ

だからもっと正反対の事を口走る

「でも、晶はオレのせいじゃないって言ってるんだろ?それに晶のくせに、ストレスを感じるとか、あり得ない」


バシッと鈍い音が保健室に響き渡り、オレの右手の甲に痛みが走る

和泉が平手打ちをしたのだ。両肩で息を弾み、激怒で頭に血がのぼっているのが分かる

「痛・・」

「あんた、言って良い事と悪い事の区別もつかないの!それじゃ、晶ちゃんがかわいそうよ」

そんなの、言われなくても分かっている。殴られた痛みは晶の痛み

この件でオレを戒める事が出来るのは、和泉しかいない

「オレだって好きであいつと血が繋がっているわけじゃない。妹をどうしようが、あんたには関係ないだろ」

和泉の手の平がもう一度振り上げられた

殴られる!? 瞬間、覚悟した。殴られてもいいと・・

「あんたなんてもう・・殴る価値もない・・」

和泉はため息をつくと、腕を下ろした

「約束して、今みたいな酷い事、晶ちゃんには言わないって」

「あぁ」

言えるはずがない。晶をこれ以上苦しませることは出来ない

「それとこれを晶ちゃんに、痛み止めの薬」

紙袋に入った薬を手渡された

「ちゃんと渡してよ」

「渡すって、そこまで鬼じゃない。帰るわ」

保健室を後にし、和泉に殴られた手の甲を見る

熱い・・思いっきり殴ってくれた・・いや殴らせたのか

殴られた時に爪で引っ掛かった部分に血がに滲んでいた