キーンコーン 授業終了のチャイムが鳴った

結局あれから晶は、生物室に戻る事はなかった

あいつ、顔が真っ青だった。大丈夫なのだろうか?

頭の中は晶の事をしか考えていないオレの前を、4組の生徒が『生物の先生より解りやすかったです』など言って次から次へと握手を求めてきていた 

握手と言うか一方的に手を握られている状態といった方が正しい表現かもしれない

「はー」
 
大きく息を吐き、白衣を脱いだ

「お疲れ。桜庭君。これで1年4組の心も掴んだわね」

のんきな事を言う松井を尻目に晶が座っていた席を見る

肝心の晶がいないんじゃ、意味がない

この授業だって、晶が4組だから引き受けた

総勢40名に教えていたわけではなく、晶の理解のペースを考えて教えていた

「桜庭君?」

「松井、途中で教室を出て行った生徒は・・その大丈夫なのか・・?」

自分の気持を表情に出さないように聞いてみた

「軽い貧血みたい。保健室でしばらく安静にしていれば大丈夫」

「そっか」

顔色が悪いのは貧血だと思うが、腹を押えていたのも貧血からか・・?
これ以上聞くと、変に感づかれそうなのでやめた

「私、改めて感心した。桜庭って授業しながら、生徒の体調とかも見てるんだもの。将来、先生になったら?」

との松井の発言に

「偶然、目についただけ。全員は見てないし、見れない」

・・とオレは肩をすくめた 

全員どころか一人しか見てない。そんな奴が先生になったら、学校も終わりだな

「桜庭君は将来の夢ってあるの?頭がいいから選り取りみどりだと思うけど」

夢・・・何回も夢に見る。晶を抱きとめて、オレの側から離さない甘い夢

「オレは、好きな女と結婚したい」

「えっ!」

オレの思わぬ発言に松井がびっくりしたようだった

まさかそんな答えが返ってくるとは思ってなかったのだろう

松井の頬が赤く染まっている

「何お前が赤くなってんだよ」

「私は別に!以外だったから、驚いてしまって。その・・好きな人いるの?」

「まったく人の嘘、真に受けるなよな」

オレは笑って冗談にした

「嘘なの。ひどい!」

「高2で夢が結婚な訳ないだろ」

オレには恐ろしいくらいの遠い夢なんだ