『お兄ちゃんなんて大嫌い!』

「はー。あいつ・・マジ、怒ってたな」

本人も自覚していないと思うが、晶は本当に怒ると、オレの事『お兄ちゃん』って呼ぶ

オレは、学校の屋上の入口に座り込んでいた

屋上は立入り禁止になっているために、人の来る気配がない

無意識の内に胸のうちポケットを探る自分がいた

タバコ・・ 

学校に持ってきているわけ・・ないか・・

タバコでも銜えてないと落ち着かない

朝、オレがリビングに顔を出すのと同時に、晶は玄関を出て行く所だった

オレと顔を合わせるのも嫌ってことだろうな

確かに、昨日は歯止めがきかなかった

晶が抵抗しなかったら、あのまま・・

「オレって、カッコ悪」

「そんな事ないぜ。はい、タバコ」

「うわッ!」

ふいをつかれて両手が地面に着く形となった

「いーがーらーしー、お前いつからここに!!」

同級生(悪友)の五十嵐がタバコの箱をオレに向けていた

「さっきから、ずっといたけど。タバコいらないの?」

「くっ・・・」

ピクッと顔が引きつりつつも、五十嵐からタバコを奪い取った

「火」

「はいはい、今日の王子様はご機嫌がナナメな様で」

執事的な所作でライターが取り出され、風で炎が消えない様に五十嵐の手が添えられる

咥えたタバコの先端がオレンジ色の点になり、昨夜の晶の皮膚に現れた紅斑と重なった

「・・で、皇紀、『あいつ』って誰?」

「なっ・・!!」

不意を突かれた五十嵐の質問に、火を付けられたタバコを地面に落としてしまう

「あーあ。もったいない」

五十嵐は落としたタバコを足で踏むと、携帯の吸殻入れに捨てた

「なーんか、皇紀カワイイんだけど。そんな表情を見せたら、別のファンの子も増えるか・も・よ」

「ふざけるな」

「結構、大マジなんだけど。潤くんは悲しい。皇紀くんに好きな女の子がいるのに、教えてもらえなくて」

「うざい。泣きまねするな。それに、『あいつ』と言っただけで、女とは限らないだろ?」

「じゃぁ仮に男なら尚更『あいつ』が誰か教えてくれてもいいよね?これでも俺、皇紀とは長い付き合いだと思ってるんだけど」

ま・・あ。良い事も、悪い事も一緒につるんで来たのは五十嵐だが、まだ言える勇気はない

「悪いが・・今は、まだ言えない。いつか・・話せるときが来たらオレから言うよ」

「分かった。じゃ、その『あいつ』に何して怒らせたの?それくらいは聞いてもいいだろ」

あ・・え・・その・・

自分の顔が紅潮していくのが伝わってきた