かゆい。かゆみが止まらない

手鏡でかゆみの場所を確かめると、顎の裏側と首の根元に蕁麻疹がでていた

朝から薬を塗っているけれど、退いていく気配がないよ

「最低だよ」

そう呟いて鏡をポーチにしまうと、机の上に塞ぎ込んだ

昨夜の出来事からほとんど眠れなくて、気がついたら朝だった

学校に着いても皇兄の態度と発言を思い出す度に、蕁麻疹が疼いてかゆくなる

「あーかゆいっ!」

交換音を鳴らすなら、ボリボリというのが今の私にピッタリ

「どうしたの今日は、荒れてますねー」

親友の萌ちゃんが、生物の本の角で私の頭をチョコっとこづいた

「別に、荒れてなんかないよ」

「うそ。今日一日顔が怖いよ。昨日何かあったの?ピアノの彼と。行ったんでしょ?音楽室」

「行ったけど、響先輩はすごく優しい人だったよ。私のリクエストも弾いてくれたし」

「良かったじゃない。じゃぁなんで機嫌が悪いの?」

「だから、悪くないって」

否定しつつも、首元をコリコリとかいた

萌ちゃんにだって、昨日の皇兄との事は言えない

あんな・・・・・言葉にもしたくない

プッ。また別のところがかゆくなって来た

忘れないと、頭の中から昨日の出来事をリセットしないと

「萌ちゃん、教室に人がいないけどなんで?」

周りを見渡すと、教室には私達二人しかいなかった

「そうよ。次の授業は生物だから、みんな生物室に移動したんだ。行くわよ、晶」

「う・うん」
 
教科書とペンケースを抱えて教室を出た

「萌ちゃん、生物室ってどっちの?」

校舎内には生物室1と生物室2があった。今日の授業はどっちでやるの?

「今日は確か、生物室1よ」

ほ・・。私は胸をなでおろした

生物室2は、2年の校舎を通らなければ着かない

今は出来るだけ避けたいコースだ

生物室1のドアを開けると、クラスのみんなは席につかずに喋っていた
 
さっき、授業のチャイムが鳴ったというのに

「みんな、席に着かないの?」

隣にいた男の子に訊くと下の答えが返ってきた

「生物のセンセ午後から休みみたいだぜ。だから自習だろ、自習」

「そうなの。じゃぁ私も何して時間をつぶそうか考えないと」
 
私は鉛筆を片手にクルクルとまわした