「何?オレが怖いわけ?」

私の耳元で皇兄の低い声が響く

ゾクゾクする。耳から背中にかけて鳥肌が走った

「い・・嫌。耳元で話さないで」

自分の声が震えているのが分かる

耳元を触れられる事が極端に弱いことを皇兄は知っている。なのになんでこんな事するの?

「余計な事は言わなくていいから、オレの方を見ろよ」

皇兄の低い声が続く

今度は首筋から二の腕にかけて鳥肌が走った

両腕は皇兄に押さえつけられたままだった

だめ。嫌な感覚に支配されそうになるのを、何回も横に首を振って紛らわすしか出来なかった

「ふーん、オレの言うこと聞けないんだ」

皇兄は私の両手首を右手に持ち直すと、空いた左手で私の右耳の髪の毛をかきあげる

「や・・」

クチュ

その音と同時に、私に衝撃が走った

皇兄が私の耳たぶを舐めながら、痛くない程度に噛み始めたからだ

クチュ、クチュ・・とわざと私に聞こえるかのようにその行為は続いた

「あ・・ぁぁ」

お願い。やめて・・・。なんでこんな事するの?

 体に力が入らなくなる

皇兄の息遣いが次第に耳たぶから上にあがって来た

「あ・・嫌!やめて!」

最後の力を振り絞って、私は皇兄の腕を振り払った

自由を取り戻したが全身に力が抜け、壁に寄りかかりながら座り込んだ

「ひどいよ!な・・なんでこんな事するの!!」

私を見下ろしている皇兄を睨む

やって良い事と悪いことがある。これは絶対悪いことだ

「ムカついたから」

「むかつく・・?私に対してって事?」

「他に誰がいる?お前って本当に無防備だよな。もう少し危機感を養ったほうがいいんじゃないの」

「・・・・?」

「ピアノと言うが、狩野とか言ったっけ?男はな、表面上は優しくても、裏で何を考えているか分からないって事」

「狩野先輩はそんな事ない」

本当に優しい人だったんだから。音楽室で私の事を待っててくれたし

「お前、馬鹿?」

そう呟くと、皇兄は私の目線の高さまでしゃがみこんだ

「なんで会ったばかりの奴を信用できんの?オレ達、年頃の男が考えている事教えてやろうか?」

「・・?」

「女がいたら、チャンスがあれば常にやりたいと思ってるんだぜ」

皇兄は真っ直ぐに私を見た