ブラウスのボタンは、オレをもて遊ぶかの様になかなか外れなかった
 
指先が熱くなり、ようやく外れた頃には手のひらに汗をかいていた

「うーん」

晶は苦しいのが和らいだのか、右に首を傾け横向きになった

こっち見ろよ

シャープな顎に手を伸ばし、その方向を自分に向ける

ドクン・ドクン・ドクン  心臓はここに居るとばかりに高鳴りだした

キスは別の女となら何回も経験がある

今更初めてというわけではない。それなのにどうしてこんなにも鼓動が激しく脈打つのだろう

相手が好きな女だから・・?  妹だから・・?

オレは重心をかかげながら、晶の唇に自分の唇を重ねに行った

「!!」

唇まであと数センチというところで、オレの身体が固まる

閉じた晶の瞳から涙が溢れだしていたのを、目の当たりにしたからだ

「お前・・・?」

涙は次々と生まれ、枕へと滴って行った

まるで、オレの行為を非難して

眠っているはずなのに、無意識の内にオレの存在を否定するかのように・・・・

「なん・・で・」

行き場のない気持ちが募っていく

晶の涙にオレが同調し、涙が・・出た




 
「待って、響先輩!」

晶の叫びと共に、ゴンッと鈍い音が響き渡る

晶の額とオレの眉間がぶつかって、仰け反り返った瞬間だった

「い・痛い!」

両手で額を押え、上半身を起こした晶は状況を把握していないようだ

オレは晶に見られないように顔をそむける

ぶつかった衝動か痛さからか、涙が両目から流れ落ちていた

右腕がカタカタと小刻みに震える

「だ、誰?」

晶は手探りでオレの腕を掴み、不安そうに尋ねた

「オレ」

両目の涙を手のひらに拭いながら、かろうじて出た言葉がこれだった

「なんだ。皇兄・・か」

オレだと分かったとたん、掴む腕の力が緩くなり、安堵の声に変化して行った

晶の頭の中で、オレ=兄だと認識された瞬間、オレの中で何かが壊れようとしていた