「そろそろ帰ろうか。皇兄・・きっとみんな心配してる」

晶の言葉に、オレは静かに首を横に振った

「皇兄?」
晶は首を掲げ、オレを仰いだ

「晶、オレは、幸せになりたいと思う」

オレの言葉に、晶は目を細めた

「うん。皇兄ならきっと幸せになれると思うよ」

「そっか」

オレも目を細め、晶に笑い返す

「だが、オレが幸せになる為には、どうしても必要なものがあるんだ。オレはそれがないと幸せになれない」

オレは、抱きしめる腕を緩め、晶と正面で向き合った

「皇兄・・・?」
晶は、キョトンと大きな瞳をオレに向ける

黒い瞳の中に、オレの姿が映っている


「オレの見つめる・・大きな瞳」

右手で晶の瞼をなぞる

「オレの名前を呼ぶ・・小さな唇」

左親指で晶の下唇をそっと押さえる

「オレの為にいつも慣れない料理をしてくれる・・傷だらけの手」

晶の手の平を両手で包んだ

「こぅ・・にぃ?」

「晶、オレはお前がいないと幸せになれない。だから、オレが幸せになる為に・・お前のすべてを・・・お前をオレに下さい」

チュッと晶の手の甲にキスを落とし、晶を真っ直ぐに見つめた

「な・・皇兄・・聞いてなかったの・・?私は・・私の存在は、皇兄の幸せを奪ってしまうって・・」

晶は首を横に向け、視線を外すと、手の平をふりほどこうとする

オレは手を強く握る

「悪い。二度と離すつもりはない。オレはもう、みすみす自分の幸せを逃がすほどバカじゃないんだ。お前も目の前に幸せがあったら捕まえに行くだろ?」

チュッ・・チュッと再度、手の甲いキスを落とす

「ダメ・・ダメ・・皇兄・・」

「お前しか、オレを幸せには出来ない」

晶は声をかみ殺し、肩を震わせて泣いていた

「私・・本当に皇兄をしあ・・幸せに出来・・」

オレは自分の幸せの事しか考えていないと言っているのに、晶はまだオレの幸せを願っている

「晶、オレはお前に心配されなくても自分で幸せを掴む。だから、お前は自分の為に幸せを掴め。自分しか自分の幸せは守れないだろ。な」

パチンと片目を閉じて、晶に笑いかける

「私・・私は・・私の幸せは・・」

凛とした晶の瞳がゆっくりとオレの方を振り向いた