晶の両足を拭き終えて、ぺチッと足の甲を叩く

 「じゃぁ、せめてスリッパでも履いて逃げ出せばよかったろ」

 「あ・・ふふっ。そうだね」
 オレの提案に晶は、頬をピクッと動かし、目を細めて笑った

 好きだなぁ、この笑い方。自分のとった行動に思い出して笑う姿

 晶が、『妹』に戻りたいというのなら、そうさせてやるのが優しさなのだろうか?

 神社での出来事は、夢だと思って、接してやるのが優しさなのだろうか?

 少なくとも、晶はそれを望んでいる

 オレがひと言、さっきの告白は、『妹』としてのものだと笑って返してやれば、晶は楽になれるのだろうか

 「お兄ちゃん?」

 足を持ったまま、動かないオレを心配そうに晶は覗き込んだ

 「晶・・」

 「なぁに?」

 「さっきの・・オレの・・」

 兄妹に戻る事が・・晶の幸せ・・

 さぁ、勇気を出して、告白は妹としてのものだと・・



 『好き・・好き』 神社でオレにキスを落としながら、呟いた晶の言葉がオレの中で呼び覚まされ、オレは息を止めた

 ごめん
 オレの、都合のいい考えかもしれない
 
 けど、オレにはやっぱり、神社での言葉が真実で、さっきの晶の言葉は嘘に聞こえるんだ

 嘘はつけない。それが、オレの出した結論だった

 自分の心を偽る事はしない。もう、逃げないと決めたのだから

 「晶、さっきのオレの告白は・・お前を思う気持ちは、本当なんだ」
 静かに、おとぎ話を聞かせるように、オレは囁いた

 なぜ、気付かなかったのだろう

 晶に、教える時、何かを伝える時は、要点をおさえながら、語りかけるように話をしていた事を。晶が理解するまでゆっくりと時間をかけて、晶の答えを引き出していた

 なのに、オレは一方的に、『好きだ』としか言っていない。オレがお前をどんな風に好きなのか、ちゃんと伝えていなかった

 晶・・これがお前に出来る、最後の授業

 だから、ちゃんとオレに答えを聞かせて


 「皇・・」
 オレは晶の隣に座り、言葉に詰まる晶を、見つめた

 「オレの中でのお前は、いつも『妹』ではなく、いつもひとりの『女の子』だった。お前が神社でキスしてくれるずっと前から好きだった」

 本当に、本当に好きで、時に自分か怖くなるくらいにお前のことが好きだった