皇兄の『逃げるな』と言う声に私は立ち止まった

 皇兄の言う通り。いつまでも逃げ回れない。分かっていたことなのに

 やっぱり・・現実を見るのが怖かった
 あんな事をした私を、皇兄がどう思っているのか、聞くのが怖かったの

 皇兄の気配は、私の少し離れたところで止まった

 「あきら」
 皇兄の呼び声に、私の身体は固まった
 何を言われるのか、怖い。でも・・耳を塞ぐ事も出来なくて・・ただうつむいた

 「・めん・・こぅにぃ・・ごめんなさい」
 
 ごめんなさい・・ごめ・・ごめんなさい
 何回謝ったら、私のした事を許してくれる?

 「晶、こっちを向いて」
 私はもう、皇兄の声に捕われていて、逆らうことが出来なかった
 目を閉じながら、ゆっくりと踵を返す
 
 「顔・・あげて」
 皇兄は、どんな表情をしているの?
 見るのが怖い・・きっと私を・・毛嫌いするか・・軽蔑してるよね

 でも、ここで顔を上げなかったら、皇兄と見つめ合えるのは、最後かもしれない
 もう2度と私を見てくれなかもしれない

 私は、ゆっくりと瞼を開いた
 
 皇兄の表情は、いつもと変わらなくて
 むしろ、いつもより優しく見えた

 最初に・・何を言われるのだろう?
 きっと、私の望む言葉ではない・・きっとそう・・


 「好きだ」

 「え?」
 皇兄の最初の言葉だった
 聞き・・間違い?
 私が、そう言ってほしいと、強く思っているから、幻聴となったの?

 「お前が好きだ。晶」

 「あぁ・・嘘・・嘘・・」
 皇兄の言葉に私は、口元に手をあてて、首を横に振った

 皇・・兄?
 いったい、誰を見ていってるの?
 わかってて、言ってるの?

 私・・妹なんだよ

 「好きだよ。晶」

 皇兄が私を好き・・?
 皇兄からは、確かに私の名前を呼んでいる・・でも

 そんな、都合のいい事あるわけない

 「違・・違う」
 違うよ皇兄・・皇兄のその感情は違うものだよ

 「オレは・・ずっとお前が好きだった」

 どうして・・違うと・・違うとわかっているのに、なぜこんなに嬉しいの

 私の両目から、涙が一気に流れ落ちた

 「皇兄・・私・・嬉しい」
 
 私はゆっくりと皇兄に近づいて、皇兄の胸に顔をうずめた

 嬉しい・・ありがとう・・たとえそれが・・
    
    皇兄の『優しい嘘』だとしても