逃げるな・・か。オレはため息をついた

 「いや、もうずっと逃げていたのは、オレの方だな」

 お前はずっと、オレに気持ちを伝えていたのに

   『私、皇兄が好きです』

 お前の言葉が信じられなくて、お前から『好き』と言われるはずがないと

 お前に気持ちを伝えたら・・今の生活が壊れ、晶に余計な負担をかけてしまうと、晶のせいにして自分の真実から逃げていた

 本当は・・オレ自身が傷つくのが恐かったんだ

 バカだな・・オレは
 逃げていたから、晶の真実に気付くことが出来なかった

 誰より、知っているはずだったのに・・

 オレはゆっくりと晶へと近付いて行き、晶から1mの距離をおいて立ち止まった

 「あきら」

 オレの呼びかけに、晶は後ろを向けたまま、身体を強張らせ、うつむいた

 「・めん・・こぅにぃ・・ごめんなさい」

 晶の小さな呟きが、風に乗って流れてくる

 前に言ったことがある 『お前って悪くもないのに謝るんだな』と
 晶の中で、唯一嫌いな所をあげろと言われたら、何でもすぐに謝る事だと答えるだろう

 「晶、こっちを向いて」

 白いスカートがふわりと揺れて、晶はオレの方を向いた

 「顔・・あげて」

 晶は、目を閉じ、口元を引き締めながら顔をあげ、瞼をゆっくりと開いた

 大きくて真っ直ぐに捕らえる黒い瞳

 白い肌に、ピンク色に染まった頬

 小さくて、形の整った唇

 改めて実感する。オレは晶が好き

 もう、逃げるつもりはない


 「好きだ」
 
 「え?」
 晶は首を傾げた

 「お前が好きだ。晶」

 このひと言が言えなくて、一生伝える事が出来ないと思っていた

 「あぁ・・嘘・・嘘・・」
 晶は口元に手をあて、信じらられないと首を横に振った

 「好きだよ。晶」

 お前が信じてくれるまで、何回でも繰り返す

 お前が好きだ。晶が好きだと・・

 「違・・違う」
 晶は首を振り続けた

 何が違うと言うのだろう?オレは、ずっとお前しか見えてないというのに

 「オレは・・ずっとお前が好きだった」
 
 「うっ・・うっ」
 晶の瞳から、大きな涙が零れ落ちた

 オレの眼からも、一筋の涙が流れ落ちた

 オレはこの真実を伝えるのに、長く遠い寄り道をして、ようやくたどり着く事が出来た