「も・・もう1回聞きたい」
 晶が、ごくんと息を飲んだ

 このセリフ・・オレが曲を弾き終わった時に、晶が言ったのと同じ

 あの時・・オレは・・

 「だめ」
 オレは洞穴のコンクリートを蹴って、晶の後ろに降り立った

 「特別だって言ったろ」
 あの時のオレは、同じ曲を2回も弾く自身がなかったんだ
 だからそう言って、誤魔化して、晶の前から走り去った

 「なん・・何で・・どう・・して・・?」
 晶の肩がワナワナと振るえ、目を見開いてこっちを振り向いた

 晶の大きな瞳、ちゃんと開いている

 「どうして皇兄が、あの男の子と同じセリフを言うの?」

 「はぁ・・はぁ。やっと見つけた」
 額から流れる汗を感じながら、息を整えると、前髪をかき上げた

 晶とこうしてまた、向き合うことが出来るなんて、夢のようだ

 「どうして、皇兄が・・?」
 晶は、未だ戸惑いが隠せない様子で、オレに尋ねた

 そんなの、簡単な事

 「お前の言っている男の子っていうのは、オレだから」

 だから、同じセリフが出てくるんだ

 オレの返事に晶は大きく首を横に振った
 
 「ちが・・う。あの子の髪、茶色だった。私と同じ明るいブラウンだった!」

 髪の・・色か・・
 晶の中では、あの時のオレの印象は髪の色だったか

 確かに、あの頃と今のオレの髪色では180度違うし、茶髪のオレなんて想像出来ないだろうしな

 「髪・・か」
 試しに自分の髪を摘んでみた

 「オレも途中までは、茶色の髪色だったしな。成長するにつれて徐々に黒くなっていったから、お前が勘違いするのも仕方ない」

 オレとお前は、この時からお互い誤解していたのかもしれない

 「う・・そだ」
 晶は首を振り続けた
 そんなに、否定されると少し辛い

 「オレもここに来て、鼻歌を聴くまではすっかり忘れていたよ。お前との大事な思い出のはずなのにな」

 でも、ちゃんと思いだした

 「ギリギリだったが、思い出せてよかった。お前の事はどんな些細な事も忘れたくない」

 晶の体勢が徐々に、後退して行った

 オレが手を伸ばしても、掴めない距離に辿りつくと、晶は背を向け走り出した

 「待て!!晶、もう逃げるな!」

 オレの前から、黙っていなくならないでくれ!!

 オレの叫びに、晶の足が止まる