どうして気付かなかったのだろう

 晶が、悲しい時に真っ先に逃げ込む場所

 そう、ここの公園であいつは何度涙を流したのだろう

 覚えているだけでも、10本の指は軽い
 
 「晶!何処だ!」

 公園には誰もいなかった。ただ・・中央にコンクリートで作られた洞穴があった

 「いるなら返事しろ、晶!」

 洞穴の中に、人影が見える
 ジッと動かずに、息を潜めているのがわかる
 昔から、あいつ・・いっつもここに隠れてた
 
 間違いない。晶だ

 昔なら、穴の中に入ることが出来たが今のオレは入口から手を伸ばすことしか出来ない

 奥に引っ込まれたら、それこそあいつは出てこない

 どうする・・?
 どうすれば、晶は洞穴から出てくる?

 オレはゆっくりと洞穴の入口から離れ、裏に回ると洞穴の上に座った

 コンクリートを挟んだ向こう側に、晶がいる

 「にぃ・・うっ、うっ、・・」
 晶の鳴き声が、コンクリートを伝って聞こえてきた

 泣くな・・晶、泣くな
 晶がひとりで泣いている。泣かせているのはオレのせいだろう

 何か、あいつが出てくる方法を・・

 「!」
 しばらくすると、泣き声から、鼻歌まじりの曲が聞こえてきた

 「これは・・」

 晶の好きな曲だ
 なんだ・・?以前にもこんな事があった

 泣きやまないあいつを見兼ねて・・オレは・・この曲を・・その日の音楽で習ったこの曲を・・晶の前で弾いた

 どうして、今まで忘れていたのだろう

 懐かしいな。オレは、下手なりに一生懸命あいつに弾いた曲

 『星に願いを』  
 
 星よ・・どうか晶をそこから、連れ出して下さい

 オレは、晶の鼻歌に乗せて、口笛を吹き始めた

 オレと晶の『星に願いを』がハミングする

 晶の鼻歌が、ピタッと止まった。オレはそのまま、口笛を吹き続ける

 晶の顔が、洞穴の入口からひょっこりと出て来た
 辺りを見渡し、様子をうかがっている

 「何処から・・?」

 晶は首をひねり、ゆっくりと洞穴から出て、立ち上がった

 何日ぶりに、動いている晶の姿を見ただろう

 オレはその姿に、息を飲んだ

 「気のせい・・?えっ!」

 晶は、自分の影に、オレの影が重なっていることに気付き、驚いている様だった

 あいつまだ、こっちを振り向かない