もしかして・・夢の中の男の子・・?

 振り向いてその人の顔を・・でも、すごく昔の事だ。顔を見てもきっとわからない

 「も・・もう1回聞きたい」
 あの時と同じセリフを、振り向かずに言ってみる

 「だめ」
 と言う言葉と共に、私の後ろにその人が降り立つ音がした

 「特別だって言ったろ」
 
 あの時と、同じセリフが返ってきた

 「なん・・何で・・どう・・して・・?」
 私はゆっくりと、後ろを振り向いた

 「どうして皇兄が、あの男の子と同じセリフを言うの?」

 私の初恋の男の子と同じ事を、な・・ぜ?

 私の前には、脱いだ制服の上着を片手に、汗だくになった皇兄が立っていた

 「はぁ・・はぁ。やっと見つけた」
 肩から息をしていたのを一息つけると、皇兄は前髪をかき上げた

 「どうして、皇兄が・・?」

 私は、あの子の事は誰にも話したことがなかった
 家族の誰にもだ

 皇兄は私の知らない所で、その子に会ったの・・?

 「お前の言ってる男の子っていうのは、オレだから」

 え・・?
 そんな、だって!
 私は首を横に振った。それはない

 だって、あの時の男の子の髪の色は、見事な茶色だったもの
 
 「ちが・・う。あの子の髪、茶色だった。私と同じ明るいブラウンだった!」

 記憶力のない私でも、これはだけは断言できる

 皇兄の漆黒の黒髪とは違う

 「髪・・か」
 皇兄は、自分の髪をひと摘みする

 「オレも途中までは、茶色の髪色だったしな。成長するにつれて徐々に黒くなっていったから、お前が勘違いするのも仕方ない」

 「う・・そだ」
 嘘、嘘、嘘
 だったら、私は・・私の初恋の相手は、皇兄だったと言うの!!

 そんな・・ことって
 私は最初から、皇兄に恋をしていたと言うの

 「オレもここに来て、鼻歌を聴くまではすっかり忘れていたよ。お前との大事な思い出のはずなのにな」

 ジリ・ジリと私は、後すざりし始めた

 「ギリギリだったが、思い出せてよかった。お前の事はどんな些細な事も忘れたくない」

 私は、踵を返せるだけの距離をとると、方向転換し走り出した

 「待て!!晶、もう逃げるな!」
 皇兄の声に、私の足が止まる

 「いや、もうずっと逃げていたのは、オレの方だな」

 皇兄が、ゆっくりと私に近付いてきた