どれくらい時間が経ったのだろう・・?

 外の子供達の声や、犬の声も聞こえなくなった

 太陽の光も、弱くなった様に思う

 同じ体勢で座っているから、身体が痛い

 「ケホッ、ケホッ」

 もう一度、お水を

 水のみ場へと洞穴から出ようとした時、遠くから声がした

 「あ・・ぁぁ・・」

 口元に手をあて、私は、穴の奥に下がった

 遠くでも、わかる。この声は皇兄のものだと・・

 「晶!何処だ!」

 皇兄の声・・
 低い声だけど、あったかい声

 皇兄・・私はここにいるの

 「いるなら返事しろ、晶!」

 でもね、返事は出来ないの

 ごめんね。ごめんね
 返事をしちゃうと、私、きっと皇兄に迷惑をかけてしまうの

 だから・・早く諦めて、帰って皇兄

 私の事は忘れて

 「あ・・・」

 皇兄の足音が小さくなって行く
 
 私を探すのを諦めたみたい
 
 「こぅ・・皇にぃ・・うっ、うっ、うっ・・」

 熱いものが、喉の奥から込み上げ、それは雫となって流れ出した

 泣いてはだめ・・だめだ・・
 私の鳴き声は、洞穴の中に響渡った

 自分の鳴き声を、聞いていると余計に悲しくなる

 何か・・何か別の事を・・
 そうだ。私が泣いている時、元気付けてくれたあの曲

 『星に願いを』歌詞はわからないけれど・・メロディなら鼻歌で口ずさむ事が出来る

 「るぅるるる・・る・る・る~」

 手で拍子をとりながら、『星に願いを』を口ずさんだ

 私の願いは届かなかったけれど、どうか・・どうか皇兄が何かをお願いした時は、叶えてあげて下さい

 「る・る・・」

 「ヒュ・ヒュ・・」

 「え?」

 私の鼻歌にあわせて、外から口笛が聞こえてきた
 私が口ずさむのをやめても、その口笛は『星に願いを』のメロディを奏でている

 ゆったりとした、柔らかい音
 
 私は出口へと誘われるままに、這って行った

 出口から、顔だけ出して見渡すけれど人の影はなかった

 でも、メロディは続いている

 「何処から・・?」

 洞穴から完全に出て、立ち上がると、ピタと口笛が止まった

 「気のせい・・?えっ!」

 夕日に照らされた私の影に重なって、もうひとりの影があった

 コンクリートの洞穴の上に誰かが座っている影

 この人が、口笛の人・・?