震える身体を両手で抱きしめる

 「晶ちゃん?まだ、調子が悪いの?」

 「いえ、大丈夫です」

 ダメだ。震えが止まらない

 身体の震えを見せないように、毛布の中に両手を入れる

 だんだん・・記憶が戻どってきた

 私・・

 最初は、手に触れたい。そう思った
 神殿に向かう石段で、皇兄の長く繊細な指へと、手を繋ぎ行った
 心地よい握り加減で、すごく幸せだった

 次に、温もりを感じたくて、抱きしめてほしいと思った
 雨で冷えた身体を、温めてほしくて、私は懇願した

 『もう皇兄にこんな無理言わないから、だから』
 お願い・・私を抱きしめて

 雨が止むまでの、期限つきだったけれど、皇兄は私の身体を抱きしめてくれた
 好きな人に抱きしめられる事が、こんなに幸せだと思わなかった

 この感覚を忘れない
 この温もりの感覚さえあれば、明日からはいつも通り、兄と妹に戻れると・・そう思った

 でも、私は・・私は・・
 雨が止んで、皇兄と離れてしまう現実を突きつけられた時、歯止めが聞かなくなった

 私は・・皇兄に・・

 
 「君が倒れた時のあんな取り乱した皇紀、初めて見た」

 私は、また・・皇兄に心配をかけてしまったんだね

 「君が、目を覚まさない間もずっと傍にいたんだよ」

 そして、迷惑もかけてしまったんだね

 もう、嫌。こんな自分
 皇兄に迷惑をかける事しか出来ない自分

 私なんて、何処かに消えて、なくなっちゃえばいい


 「あっ!俺、君が目を覚ましたら、皇紀に携帯入れる約束してたんだ」
 五十嵐先輩は携帯電話を取り出して、番号を検索し始めた

 「先輩・・五十嵐先輩」
 私の呼び声に、先輩は携帯を弄る手を止めた

 「どうかした?」

 「シャワーを・・シャワーを浴びたいんですけど、ダメですか?」

 今度、皇兄に会ったら、自分がどんな行動に出るのか想像がつかない
 恐い・・皇兄に会うのが恐い

 「シャワーかぁ。そうだよね。女の子だしね。浴びたいよね」

 私はこれ以上皇兄に迷惑をかけるわけにはいかないの

 「長くはダメだけと、ちょっとだけなら。シャワー室に案内するよ。立てる?」

 「はい」

 私は、神社へ着て行ったワンピースがソファの上に折り畳んであるのを確かめると、五十嵐先輩の後に続いて行った