「あき・・ら?」

音のない静かな音楽室では、晶の寝息が静かにリズムを取っていた
 
オレは歩み寄ると、晶の頭に手を触れた

眠ってる・・

 試しに、プクッとした柔らかいほっぺを軽くつまむ

「ふにっ」

・・と言う声を発したものの、目を覚ます気配はない

「やばい、マジ・・かわいい・・」

心の声がいつの間にか、口から出ていた
無邪気に眠りやがって、襲いたくなるだろ

「帰ろう、晶」

肩を揺すろうと手を伸ばすと、晶の背中に男の上着がはおられてあった

「チッ」

男の存在に気付き、舌打ちする

やはり、晶は男と一緒にいたようだ

こんな狭い音楽室で、男と・・しかも居眠りしやがって

他の男が晶の寝顔を見たかと思うと、ふつふつと怒りが込み上げてくる

オレは晶から上着を剥ぎ取った

オレ以外の男が晶に触れるなんて、許さない


 
「遅くなったね。家まで送るよ、晶ちゃん」

音楽室の鍵を片手に、その男は音楽室に入ってきた

「誰?」

「・・・・・」

オレは無言で男を見る

・・・いかにも優しいを絵に描いた様な印象を受ける

なるほどね

晶は昔から優しく、白馬が似合う『王子様』タイプが好みだが、まさにこいつがそう言ったところか

「誰?」

男はもう一度聞いた

「上着、返す」

その質問に答えず、手に持っていた上着を男に渡し、自分の上着を脱いで晶に着せた

「邪魔したな。こいつ、つれて帰る」

晶の背中にリュックを乗せると、今度はかがみ込んで自分の背中に晶を背負う

「手伝うよ」

「結構」

それ以上、晶に触れるな・・と言い出したくなるのをグッとこらえる

「あぁ!」

男は思い出したかの様に口を開いた

「2年1組の桜庭君だよね。副会長の」

そう言うお前は、沢村会長が言ってた狩野なんだよな

「僕は狩野 響。8組だからクラスも離れてて分からないと思うけど。でも、なんで桜庭君がここに?」

「・・・」

「桜庭・・って!」

どうやら、狩野は気がついたらしい

「晶ちゃんが言ってた、チーズケーキの味見をしたお兄さんって桜庭君?」

うるさい

お前にお兄さんなんて呼ばれたくない

オレは、その質問に答えず、音楽室を後にした