「じゃぁ、俺行きます。あいつが目を覚ましたら、早く学校に来いって伝えといてください」

 「あぁ、伝えておく。ちょっと待て、桜場」
 図書室を出て行く桜場の後姿を呼び止めた

 「何ですか?」

 「あいつ・・迷惑かけること多々あると思うが、晶とずっと良い友達(ダチ)でいてくれ」

 オレの言葉に、桜場は『えっ』と声をあげ、すぐに照れたように頭をかいてうなづくと、走って去って行った

 これから晶にとって、きっと桜場という存在は必要になる。オレが五十嵐がいてくれてよかったと思う様に


 「今の、桜庭君の友達(ダチ)?」

 「いや、オレのじゃなくて、晶の・・」
 図書室の貸出カウンターから聞き覚えのある女の声がして、思わす答えていた

 カウンターには同じクラスの松井が座っていた

 晶の・・と松井に言っても、松井は晶の事を知らないだろう
 晶と兄妹だと言う事は、学校のごく一部しか知らないはずだから

 「晶ちゃん?妹さんと仲直り出来た?」

 「え?」
 松井の思わぬ言葉に声をあげる

 「松井・・晶がオレの妹だって知っていたのか?」
 それも、仲直りっていったい・・?

 「えぇ、偶然ね。ほら、前に桜庭君に本の片づけを手伝ってもらった日があったでしょ。桜庭くんが生徒会長に呼ばれて行った後に遅れてきた1年の図書当番というのが・・」

 「晶か・・あの時は悪かった。晶に代わって謝る」

 晶の事だ。図書室の場所がわからなくて、遅れてしまったのだろう
 言い訳にはならないが・・

 「ふふっ、もういいわよ。それより、美味しかった?サバの味噌煮と揚げだし豆腐。カワイイわよねぇ、あなたに酷い事を言ったから、好物を作って、謝るんだって。良い、妹さんね」

 「・・・」

 晶が・・両手を火傷と傷だらけにして作ってくれた、サバの味噌煮とあげ出し豆腐には、そんな意味があったのか

 オレに謝る為に・・酷い事をしたのはオレの方だったのに・・

 晶はここにはいないのに・・晶の存在がぽつんぽつんと見え隠れする

 晶の辿ってきた道を知る度、胸が熱くなる

 さっき、晶の顔を見ているだけで、幸せだと思った。傍にいられるだけいいと思った

 でも、やっぱり早く、大きな瞳でオレを見てほしい

 だから・・晶・・早く目を覚まして下さい