「さっ、晶ちゃんの傍にいてやれよ。カワイイ寝顔だぜ」

 オレに向って、五十嵐は片目を閉じるとオレの肩をポンポンと叩いた

「晶の寝顔を見せるのは、今回だけだからな」
 オレもいつもの調子に戻り、五十嵐に強気で返す

 「はいはい。お邪魔虫は消えますよ」
 五十嵐は両手を挙げて、部屋から出て行った

 オレは、丸椅子に腰掛け、晶の手を握る

 熱い・・な。先生の話だと、39度以上の熱が5日は続くと言っていたから、そんなに簡単に退くわけがない

 脱水症状を起こさない為に、点滴も打ってあるが、口からも水分をとらせないと・・
 脱脂綿に水を含ませ、晶の口元へ持って行く

 冷たい脱脂綿に、晶の唇がピクッと反応した

 いつもの桜色の唇は、熱で赤みを帯びていた

 小さく、薄い整った唇

 晶に唇を重ねられた時、この感触を知っていると感じた。それも、つい最近の感覚

 「なぁ、教えてくれよ」
 乾燥した晶の唇に、水をつけた人差し指をなぞる

 「あの時、オレの口の中に『すもも』味の飴を残したのは・・お前?」

 予算の書類を作り終え、眠ってしまったのは、ほんの数十分だろう
 起きた時に、オレの口の中には『すもも』味の飴が残っており、唇はキスした感覚の微熱をおびていた
 あの時は、自分の気のせいだったと、無理やり納得させたのだが・・・



        真実は、晶しか知らない



 でも、それが本当で・・オレがキスした相手が晶なら・・

 「お前の・・初キスの相手ってオレ?」

 不謹慎だと・・思う
 この件で、晶を傷つけているのかもしれないのに

 でも・・もしそうなら・・

 「ごめん晶。でも・・オレ・・うれしい」

 バカだな・・オレ
 晶が、苦しんでいるのに・・うれしいだなんんて
 目を覚ましたら、お前からの批難はすべて受けるから・・だから

 「早く、目を覚ませ。晶」


 「ん・・・」

 オレの言葉に一瞬、晶の瞼が反応し、瞳の3分の1が開いた

 「あきら・・!」

 だが、目線は定まっておらず、すぐに瞳は閉じられ、晶は目覚める事はなかった

 
 『眠りの森の美女』の『オーロラ姫』はいったい何時、目を覚ますのだろう?

 100年・・200年・・命が続く限り、オレはお前を待っている