家にいる母さんに晶の事を電話で説明し終えて、部屋に戻る

 音を立てずにドアを開けると、囁くような話声が聞こえてきた

 晶が目を覚ました!
 そう思って、急いでベットへと向うと、丸椅子に腰掛けた五十嵐が、晶の手の平を両手で握っていた

 晶は、眠ったままで、話声は五十嵐のものだった

 「いが・・」

 「ごめんね。晶ちゃん」

 「!」
 五十嵐から出た言葉に、オレの動きが止まる

 「君に、つらい選択をさせてごめんね。皇紀にあんな行動をとらせたの半分は俺のせいなんだ。君と別れたほうが、皇紀にはいいんじゃないかと・・。だから、目が覚めた時、あいつを責めないでやって」

 五十嵐は、晶に頭を下げた

 五十嵐・・それは違う
 晶と離れると決めたのは、オレ自身
 お前は、全然悪くない

 オレはいつも寸前の所でお前に助けられる
 改めて思うよ、お前と親友でよかったと。いつか・・お前が困った時は、今度はオレが助けるから

 「気安く晶に触るなよ」
 晶に近づいてきたオレの前に、五十嵐が立ちはだかった

 「皇紀、お前にひとつ確かめておきたい事がある」
 オレに向けられた五十嵐の顔は、さっき晶に話し掛けた表情とはガラッと変わっていた

 「なんだ?」

 「彼女は、お前への気持ちを誰にも話せなくて、お前を忘れようと、昔のお前みたいに別の人と付き合おうとしたんだ。でも、お前と違うのは、その間違えに途中で気付いた事。そして、お前が出来なかった自分の気持ちを打ち明けた事」

 五十嵐はゆっくりと、オレに詰め寄ってきた

 「彼女の勇気に、お前はどう答えるつもりなんだ?また、血の繋がりだとか、家族だとかくだらない理由で、この子の気持ちを踏みにじる気なら、俺は許さない。このまま、この家に閉じ込めて、お前には2度と会わせない」

 「オレは・・・オレが晶を思う気持ちは誰にも負けない。例え神が、オレの前に阻んでも、晶の手を2度と離すつもりはない」

 抱きしめたら、2度と離さない。晶が嫌がったとしても

 オレは真っ直ぐに五十嵐を睨み返した

 「OK。それを聞いて安心した。さっきまでのお前、やった事に対しての後悔ばかりだったろ。大事なのは過去より、未来。お前がすべき事は、彼女の幸せを真っ先に考えることっしょ」

 五十嵐の言葉の語尾の『っしょ』と言うのが心地よく聞こえた